「(出産後、病気で)入院した私の赤ちゃんに会いに行くために、毎日2時間歩かないといけなかった。バス代がなかったから」。こう語るのは、貧困層が多く集まるコロンビア・メデジン郊外のアヒサル地区に住むソレイリ・アリアさん(33歳)。彼女はベネズエラ難民だ。
1日のバス代は月収の半分
アリアさんは2017年に、年率で最高268万%のハイパーインフレに見舞われたベネズエラから避難。2022年にアヒサルにほど近いエンビガード市の病院で出産した。コロンビア政府が医療費を全額負担してくれた。
ところが生まれたばかりの赤ちゃんは病気で入院。アリアさんは息子に会いに行くために必要な交通費を持っていなかったという。アリアさんの自宅から病院まで、電車とバスを使った場合、片道1万ペソ(約356円)かかる。退院するまでの6日間、出産直後の身体で病院まで片道1時間歩いて通った。
アリアさんの住むアヒサルは、トタンや鉄板をつなぎ合わせて作った家が立ち並び、急な坂や階段が入り組んでいる。帝王切開したアリアさんにとって、険しい道を毎日歩くことはとりわけ大変だ。
アリアさん一家の生活を支えるのは夫のロジャー・ハスペさん。建設現場で働くが、工事が終わったら次の依頼まで日にちが空く。その間は日雇いの小さな仕事をこなすが、それさえも見つからずに働く先がないこともざらだ。
ハスペさんの平均月収は5万ペソ(約1777円)。これはコロンビアの1カ月の最低賃金116万ペソ(約3万4800円)の約20分の1だ。一家が毎月払う家賃は4万ペソ(約1421円)。収入の8割を家賃が占め、自由に使えるお金はわずかだ。
アヒサルに住んでいた別のベネズエラ難民は家賃を払えなかったため、家を追い出され、ホームレスになったという。「アヒサルのベネズエラ難民のほとんどが家賃を払うだけで精一杯」とアリアさんは嘆く。