「本当に売りたい作品のためにエロは必要不可欠」。そう語るのは、2023年3月にコロンビア第2の都市メデジンで、翻訳したマンガを専門的に扱う出版社ドーガエディトレスを立ち上げたファン・マヌエル・カジェさん(30歳・男性)だ。カジェさんは同じタイミングで、「エロ以外のマンガを売る夢」を実現しようと、お金を稼ぐ「手段」としてエロマンガに特化した出版社ロクラマンガラインも同時に設立した。
リスクヘッジとして
カジェさんは「自分が好きな日本マンガをコロンビア全土に広げたい」と思い、ドーガエディトレスを立ち上げた。しかしマンガ文化の根付いていないコロンビアで、いきなり普通のマンガを売るのはリスクがある。印刷費やライセンス取得料を回収できない可能性があるからだ。
ライセンス取得料とは、日本のマンガを翻訳するための権利を購入する際に払うお金。ライセンスの購入方法は3つある。1つめは作者から、2つめはライセンスの仲介業者から、3つめは日本の出版社から直接購入することだ。それ以外に無料で購入できるライセンスもある。
カジェさんが売りたいマンガの多くは日本の出版社からしか買えない。またその金額は高い。今はまだ会社を立ち上げたばかりでお金がないため捻出できない。できたとしても、そのマンガが中南米で売れる確証はない。「それにはリスクヘッジが必要だ」とカジェさんは言う。
そこでカジェさんらは、安定して稼げるコンテンツを探し始めた。見つけたのはエロ。「エロマンガは売れる見込みがある。理由は中南米にエロマンガの出版社はないからだ。多くの人は違法サイトでエロマンガを読んでいる」とカジェさんは説明する。
こうしてカジェさんは、ドーガエディトレスと同時に、中南米初のエロマンガ出版社ロクラマンガラインを立ち上げ、7月1日に一冊目の「現代エルフのエロ事情」を発売した。
今のところエロ戦略は当たっている。現代エルフのエロ事情のメキシコ向けの予約販売700冊は1カ月で完売。店頭でも1000冊程度がすでに売れたという。コロンビアでは8月中旬に発売し、売れ行き好調だ。
コロンビアでの価格は約4万1000ペソ(約1500円)。発売から約2カ月の売り上げは少なくとも6970万ペソ(約255万円)とみられる。
ドーガエディトレスは今、フリーライセンスのマンガを数種類ストックしている。これからエロマンガの売り上げを使って、お金がなくて印刷できなかったマンガを世に出す予定だ。最初となる普通のマンガの出版も視野に入った。
カジェさんは「2024年には売りたいマンガのライセンスを日本の出版社から直接購入することが目標。エロ以外のマンガをどんどん売っていきたい」と展望を語る。
「今後もエロは捨てない」とカジェさん。リスクヘッジの手段としてエロは有効だという。