インフレ140%超のアルゼンチンで極右候補が新大統領に、アジ研研究員「国民はドラスティックな改革求めた」

12月10日の大統領就任式で「アルゼンチンに新時代が始まる」と宣言したミレイ大統領(中央)。写真はHonorable Cámara de Diputados de la Nación Argentinaから引用

インフレ率140%を超える経済危機にあるアルゼンチンで11月19日、大統領選の決選投票が実施され、野党で極右のハビエル・ミレイ下院議員(53)が勝った。同氏が掲げた公約は、法定通貨をドルにすることや中央銀行の廃止など。ラテンアメリカ政治を専門とする、アジア経済研究所の菊池啓一主任研究員は「ドラスティックな改革を求める国民がそれなりにいたことを示す」と話すが、公約の実行性には疑問が残る。

9カ月連続でインフレ100%超

「自由万歳、この野郎!」。これは、筋金入りのリバタリアン(自由至上主義者)であるミレイ氏の決まり文句だ。大統領選を前にした支持者の集会では小型のチェーンソーを振り回し、政府予算の大幅削減の意志を表した。

アルゼンチンは通貨ペソの下落や、記録的な干ばつで主要輸出品である大豆やトウモロコシの収穫量が落ち込み、激しいインフレに見舞われる。10月のインフレ率は前年同月比142%。9カ月連続の100%超えを記録した(日本は2.8%、9月の数字)。国民の4割以上が貧困にあえぐ。

こうしたなか国民が国の未来を託したのが、過激な公約で経済を立て直すとしたミレイ氏だ。菊池氏は「ここ20年で16年も政権を担ってきたのが(貧困層への再分配政策を重視する左派の)正義党(ペロン党)。その間インフレ率が上昇し続けた 。今の与党である正義党に政権を継続して任せるのは違うと感じた人が多かったのでは」とみる。

地方の熱狂が歴史を動かした

政治経験に乏しいミレイ氏が一躍注目されるようになったのは8月の予備選挙だった。アルゼンチンの選挙制度では、すべての政党が同じ日に予備選を実施し、各党の大統領候補者を一斉に決める。15の政党・政党連合から出た候補者27人のなかで、ミレイ氏は大方の予想を覆して、全体で最多得票者(得票率29.86%)となった。

菊池氏は「予備選の前に実施された一部の州知事選挙でも、ミレイ氏が所属する政党連合『自由前進』の候補の得票は伸びなかった。勢いは止まった、と思っていた。全体で3位には入るとみていたが、1位という結果は予想外だった」と驚きを隠さない。

予備選で全体1位となったミレイ氏の勝因のひとつは、地方で多くの支持を集めたことだ。その背景にあるのは、首都ブエノスアイレス市や同市を囲む大票田のブエノスアイレス州に対する地方生活者の反発だという。

中部のコルドバ州やサンタフェ州は、アルゼンチン経済を支える輸出用の大豆を作る重要な地域だ。「(それを自負する農業関係者は)自分たちが生み出した富をブエノスアイレスに吸い上げられているとの意識が強い。今回の大統領選は、大豆などに課せられた輸出税を政府に払っても経済が上向かないと憤る農業関係者らが、中央にノーを突きつけた面もある」と菊池氏は分析する。

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