「西アフリカ・リベリアの採掘者は、大きなダイヤモンドがあっても気づかず、誤って捨ててしまう」。そう語るのは、ダイヤの採掘や商品化の過程で起きる人権侵害や環境破壊の解決に取り組むNGOダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)の村上千恵代表理事だ。捨てられたダイヤには、婚約指輪およそ666個分に当たる200カラット(40グラム)のものもあったという。
採掘者は大損してきた
こうした間違いが起きる理由は「採掘者の思い込み」にある。ダイヤを採掘する際は通常、鉱山で掘った砂利をふるいにかける。だがリベリアの採掘者は、すべてのダイヤはふるいの底に沈むと信じ込んでいるという。そのため、ふるいの上に残った石を、その中にダイヤがあるかどうかは確かめずに一緒くたに捨ててしまう。
村上さんは「(大きなダイヤはふるいを通らないから)採掘者は『小さなダイヤしか見つからない』とよく嘆いていた」と話す。採掘者は知らず知らず大損してきたわけだ。
厳しい毎日を送る採掘者の生活を良くしようとDFPが2018年から活動してきた場所が、リベリア西部のバポル州ウィズア村だ。首都モンロビアから車で7時間ほど。ジャングルの中にある。
ここでダイヤが見つかったのは、いまから半世紀以上前の1960年代初めのこと。ウィズア村の村人は、リベリア全土はもちろん、近隣のシエラレオネ、コートジボワールなどから一攫千金を夢見て集まってきた人たちとその子孫だ。人口は5000人を超える。
200カラットのダイヤが見つかったのもウィズア村。ただ見つけたのは村人ではなかった。採掘者が気づかずに捨てていたのを、通りすがりの人が拾って自分のものにした。「この話は村で語り草になっている」(村上さん)
ダイヤには磁力がある?
この思い込みの奥にあるのは、ダイヤにまつわるいくつかの「迷信」だ。「ダイヤは同じ大きさの普通の石よりずっと重い」「磁力をもっていて、ふるいと引き合う」など。村上さんは「迷信の数々は、採掘者の親や祖父母の代から伝えられてきたようだ。彼らが正しい知識を得る足かせになっている」と話す。
採掘者の収入アップを阻む非科学的な迷信に対し、科学的なアプローチで採掘の知識を伝えるのがDFPだ。ウィズア村の採掘者を対象に、2022年から定期的にワークショップを開いてきた。第1回のテーマは「ダイヤの重さは普通の石と変わらない」。0.16カラットのダイヤと、同じぐらいの大きさの石を、参加者が秤に乗せた。
ワークショップで使ったダイヤも秤も、参加者の家にあったもの。比べる石も、参加者に選んでもらうようにした。村上さんは「こちらで用意すると、何か仕掛けがあるのではと疑われてしまう。ひとりひとりにやってもらった。全員が納得するまでに2時間以上かかった」と振り返る。
「重さはほぼ変わらないことがわかったとき、みんなとても驚いていた。参加者の何人かはその後、上のほうの砂利を捨てずにダイヤがあるかどうかを確認するよう、他の採掘者に教えるようになった」(村上さん)