ベナン南西部のクッフォ県ザフィー村に住むソヒヌー・マルディさん(52)はブードゥー教の最高責任者(シェフと呼ぶ)のひとりだ。シェフになる前、木こりの仕事をしているとき「ブードゥーの神によって自分の命が救われる体験をした」と話す。ソヒヌーさんはかねてからブードゥー教の信者だ。
奇跡を呼んだブードゥーのベルト
ソヒヌーさんが勤めていた材木屋は、林で木を伐採し、それを机やいすなどに使える材木に加工し、家具メーカーに売る。1カ月の売り上げは100万CFAフラン(約25万円)だったという。
木こりをしていたソヒヌーさんは7年前のある日、仕事場に向かうために林の中を歩いていた。そのとき、水牛を捕える罠に左足が挟まってしまった。罠を外したいが、重くてニッチもサッチもいかない。しかも金具が身体に喰い込むので激痛だ。
20分ほど動けずにいると、誰かが近づいて来た。この罠を仕掛けた猟師だ。猟師はソヒヌーさんを助けようとしたが、罠を外す金具が重すぎて一人で外せない。ソヒヌーさんは罠に挟まれて痛み苦しんでいる。
このままこの人が死んでしまったら、自分の罠で人が死んだことになる。それを恐れた猟師は、ソヒヌーさんを殺すことを考えた。銃を彼に向け3発撃った。
ソヒヌーさんは自分は死ぬと思った。
だが、銃弾が体に当たっているのになぜか傷がない。生きている。死なないソヒヌーさんを恐れて猟師は逃げていった。自分でも訳がわからない。足から罠を外せず引きずりながら、車が通る道まで歩いていくと、車が通りかかった。数人で力を合わせてようやく罠が外れた。
ソヒヌーさんは後日、信仰するブードゥー教の祭壇に向かい、良いことがあったと神に報告した。また占い師を訪問したところ、「ブードゥーの神があなたの身を守ってくれた」と言われた。銃弾を受けたとき、ソヒヌーさんが腰に巻いていた、蔓(つる)の繊維を編み込んだブードゥーベルトが彼を守ったという。
占い師はソヒヌーさんに続けてこう告げた。
「あなたはブードゥーのシェフになりなさい」
占い師の言葉を聞いたときは驚いた。ソヒヌーさんはその後、シェフになるための必要な資金を貯め始めた。資金は、祭壇、祭壇を納める部屋、その土地、動物の骨、コーラナッツ(アフリカ原産のコラノキ属の種)などを買うために必要だ。その額は合計200万CFAフラン(約50万円)だという。
シェフに任命されてから7年後の2009年、ソヒヌーさんは38歳でシェフになった。