インドの中部にあるマディヤ・プラデーシュ州のカーナ・トラ保護区で暮らす先住民のバイガ族とゴンド族が「トラの保護」を理由に強制的に退去させられた。世界各地の先住民を支援する国際NGOサバイバル・インターナショナルが1月14日、発表した。この保護区は、両民族にとって先祖伝来の土地。同団体のスティーブン・コーリー代表は「インド政府は、バイガとゴンドを元の土地に帰すべきだ」と強く非難している。
サバイバル・インターナショナルによると、強制退去を受けた人たちは「環境森林保護省の役人から『すぐに立ち退かなければ、ゾウを放ち、家や作物を踏みつぶす』と脅された」と証言した。また、立ち退きの際、別の土地や家、金銭の補償を約束されていても、実際に受けとれたのはその一部。最悪の場合は何ももらえないという。さらに、立ち退いた先住民が得られる職は保護区のガイドくらいしかない。
同団体は、トラを保護するために先住民を森から追い出す必要は全くない、と指摘。むしろ、観光名所のカーナ・トラ保護区に訪れる観光客が、トラの写真を撮るためにジープで保護区内を騒がしく駆け回ることが、トラのストレスになっているという。
コーリー代表は「カーナ・トラ保護区で起こっていることは、トラの保護活動の醜い面を表す典型的なもの。先住民は世代を重ねて、トラの生息環境を慎重に守ってきた。観光客がその環境を乱している。保護活動家にはこの皮肉が分からないようだ」と述べ、先住民を追い払うことでトラが救われることはないと主張する。
インド政府は1973年に「プロジェクト・タイガー」というトラの保護活動を開始した。20世紀初めに約4万頭いたベンガルトラが、当時は約2000頭まで減少。このためインド各地にトラの保護区を指定し、保護区内で人間が利用できないエリア、規制の下で利用できるエリアを設けた。