ケニアの小規模農家が捨てていたアボカドの実を買い取り、アボカドオイルを生産・販売する事業を立ち上げた女性がいる。JICA海外協力隊の2年の任期を終えて日本に帰国したばかりの伊治由貴さん(30)だ。7月の生産開始に向けて準備を進めている伊治さんは、リスクを自ら100%とるいわゆる“起業家”ではない。ボーダレス・ジャパンの系列会社Alphajiri(アルファジリ、本社:ナイロビ)に就職した「社内起業家」だ。
牛の餌か畑の肥やしになっていた
「アボカドオイルの使い方は多彩。そのままサラダにかけて食べるのはもちろん、高温調理にも合う。オレイン酸(不飽和脂肪酸)も豊富で、健康的」。ほんのり緑色だが無味無臭、どんな料理にも合うアボカドオイルの魅力について伊治さんはこう話す。
アボカドオイル事業の舞台となるのは、首都ナイロビからバスで6時間の場所にあるケニア西部のケリチョ郡。伊治さんがJICA海外協力隊のコミュニティ開発隊員として2022年4月から2年間活動した場所だ。ケニアの農家の8割を占める小規模農家(1ヘクタール以下の畑しかもたない農家)の収入を上げるため、バナナやソルガムなどを使った加工食品を開発し、地元のマーケットで販売してきた。
アボカドを買い取るのは、アボカド以外に本業の作物を育てるこうした農家からだ。「この事業の一番の目的は、使い道のなかったアボカドを買い取ることで、プラスアルファの収入を農家にもたらすこと」(伊治さん)
実はケニアはアボカドの生産量が世界6位。主に欧州や中国へ輸出するハス種を育てる農家も増えてきたが、家庭内で消費する自生種なら「どの農家の庭にも最低2〜3本の木があった」。特別な手入れをしなくても旬の時期(4月と9月)は1本から約300個の実がなり、家族だけでは到底食べきれない。4割以上が牛の餌か、畑の肥やしに消えていたという。
ほとんどの農家が日々を生きるだけで精一杯で、病気になっても病院に行けず、子どもの学費も払えないことを知った伊治さん。2年の協力隊の経験を生かし、「捨てられていたアボカドで新しい仕事を作れないだろうか」と考えたのだ。