ココナツオイルがスルスルと私の背中を滑っていく。私はいま、コロンビア第2の都市メデジンのマッサージサロンのベッドの上にいる。
照明を落とした個室。川のせせらぎや鳥のさえずりがBGMで流れる。空調が効いていて快適だ。
マッサージ師のカルロスさんは20代の青年で「働き始めて4年」。私にまず、「パンツ一丁になって。ベッドの上でうつ伏せに」と言った。
ココナツオイルを使って直接、私の素肌にコンタクトする。手のひら、前腕、肘などを使って水平方向に手を動かしていく。気持ちは良いものの、無防備で身を任せるのは恥ずかしい。「何かされるのではないか」との不安を頭をよぎる。
疲れたサラリーマンにぴったり
実は私は日本で「あん摩マッサージ指圧師」と「理学療法士」の国家資格をもつ、人呼んで「マッサージ求道者」だ。
ひと月ちょっと前まではペルーの首都リマにある病院で、JICA海外協力隊員として2年間、マッサージを含むリハビリテーションをペルー人の患者に行ったり、病院のペルー人スタッフに指圧マッサージのやり方を教えたりしていた。
コロンビアのメデジンと言えば美男美女が多いことで有名な街。協力隊の任期が終わって日本で就職するまでの間の気分転換を兼ねてやってきた。来たからにはマッサージは外せない。
マッサージサロンの受付で私は「お勧めのマッサージは何?」を尋ねてみた。すると「コロンビアでいま一番人気なのは『ディープ・ティッシュー・マッサージ』(深部組織マッサージ)」。というわけで興味本位で試してみたのが冒頭のシーン。
オイルを使うメリットは刺激がマイルドであるためリラックス効果が高いこと。これに加えて、オイルマッサージは何度もさするため、皮膚が徐々にポカポカしてきて、血液・リンパの循環も良くなる。
今回受けたディープ・ティッシュー・マッサージはそうしたメリットを生かしながら、筋肉のより深い部分にも刺激を与えようとするものだ。指圧をしながら同時にストレッチングも行うような手法だ。
日本ではまだまだ馴染みがないディープ・ティッシュー・マッサージ。名前だけは聞いたことがあったものの、マッサージ求道者の私でも一度も受けたことがなかった。「チャンスだ!」と思い、店に思わず飛び込んでしまった。1時間の値段は15万ペソ(約5000円)。決して安くはないが、「ぜひ体験してみたい」と胸が高鳴る。
実際受けてみると、関節を時折、最大限にストレッチされた状態で筋肉や腱を圧迫されるので痛みを感じることもある。マッサージの最中にスヤスヤと眠ることは不可能。マッサージが終わったとき、気持ちはそこそこ良かったが、満足感は値段の割には低かったというのが正直なところだった。