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西アフリカ・ベナンの農村には占いで選ばれる「女王」が存在する。ベナン南西部のドボ市アホメ村に住む60代前半のアロファ・エボ女王もその一人だ。地元の言葉アジャ語で女王は「ダシ」と呼ぶ。ダシの仕事はたった一つ。「祈りを捧げること」だ。この行為を全うすることで存在意義を発揮する。
誰に何を祈ったかは覚えてない
ドボ市のダシが捧げる祈りは2種類。1つ目はドボ市のすべての人を対象にするものだ。きょう1日市民が何事もなく平穏に過ごせるように祈る。毎週行うことが彼女の仕事だ。
ダシは朝起きた後、身体と頭に白い布をまとい、アホメ村にある神聖な林に向かう。水、国民的炭酸飲料の「ユーキ」、国民酒のソダビを大地に注ぎ、そこに眠るドボ市の神様ホフウェイにあいさつする。この林にはダシと王(アジャ語で「エフィオ」と呼ぶ。この村のエフィオは、ダシとは別の家系から選ばれる)しか入れない。どんな儀式が行われているかは不明だ。
2つ目は個人に対する祈りだ。ダシはドボ市民ひとりひとりの願いを叶える役割も果たす。仕事が欲しい、結婚相手が欲しいといった願望だ。「雨が降らずに困っていた時、ダシに雨乞いを頼んだら、本当に雨が降ってきた」。アホメ村へ2時間かけてやって来たトボ・フエさん(85)は語る。
ダシの祈りを求める人は後を絶たない。「たくさんの人が毎日訪れるから誰に何を祈ったかは覚えていない」とダシはつぶやく。
祈りはダシの住まいの前で行われる。住まいは土壁と草葺き屋根でできた8畳ほどの広さ。室内にはトイレや浴室もなく、料理をする小さなスペースがあるのみ。そこで4人の世話係と共同生活を送る。食事の支度、家の掃除、洗濯まで女王の身の回りの世話はすべて彼女たちがする。
ドボ市民は野菜、ソダビやビール、お金などの献上品を持ってダシを訪れる。祈りが始まるとダシは水とソダビを大地に注ぎ、言葉を唱える。依頼者は、アジャ語で「受け取る」を意味する「フヤジ」と返す。

ドボ市のダシ(女王)が暮らす家(ベナン南西部のドボ市アホメ村)。土壁と草葺屋根で作られている