
西アフリカ・ベナン南西部に位置するドボ市アホメ村のトガン・ジドニ・クラベシ氏(35)は、ブードゥー教のシェフ(最高指導者)のひとりだ。彼は儀式や祝詞によって、6つのブードゥー教の神のご利益を村人に授ける。その返礼としての寄進は、神のご利益を寄進者にもたらすだけでなく、シェフはその一部を貧しい村人に分け与える。
無駄遣いを止める神
ブードゥー教のシェフは神の力を使える。クラベシ氏が力を使う6つの神とは「ハビエズ」「サパタ」「エダン」「アゾン」「アミノン」「マソクス」。それぞれの神には、悪事を判断し裁く、病を体から出す、仕事を成功させたり無駄遣いを止めたりして富を増やす、発疹などの病を治す、空き巣などから家の安全を守る、移動中での事故から守るといった役割がある。
ご利益を求めてやってきた村人に対しては、これらの神々の祈りの言葉を告げる。また軒先に血痕が突如現れるなどの不思議な現象が起こった村人にシェフはそれが何を意味するかを神に諮る。
例えば、クラベシ氏の神を信じる運転手がアホメ村から約350キロメートル離れたベナン北部の都市パラクー近郊で荷台に多くの子どもを乗せて走っていたとき、危うく事故を起こしそうになった。あまりの急坂を前に車が上りきれず後進してしまい、後ろに衝突しそうになったのだ。あわや大事故と思われたそのとき、不思議にも車がするすると坂を上った。
運転手はのちにクラベシ氏を訪ね、このことについて神に諮ってもらったという。「それは神のおかげだ」。クラベシ氏はそう告げた。
運転手は助けてくれた神に感謝し、2万4000CFAフラン(約6000円)のお金を寄進したという。これだけのお金があれば、ベナンの主食のひとつであるトウモロコシの粉を1世帯の2カ月分買える。
シェフはこのほか、ガリ(キャッサバの粉)が高く売れるように、何者かが家に侵入しないように、移動中に盗賊に襲われないように祈る。また病気を治すために薬草などを使った治療をすることもある。