「チベット人にとって、パスポート(旅券)の取得は天国に行くより難しい」(チベット人ブロガー)――。チベット人やウイグル人が中国政府からパスポートの発給を制限されているとする報告書「ひとつの旅券、ふたつの制度:チベット民族ほかの海外渡航を制限する中国」をヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が発表した。
報告書によると、中国政府はパスポートを発給する際、チベット自治区や新疆ウイグル自治区などの住民に対し、差別的な対応をとっているという。そのひとつが、裁判所や国家安全部、検察局などが発行した証明書の提出を義務づけていること。証明書の入手が難しいこともあって、チベット人へのパスポートの発給が5年遅れたり、発給が拒否されたりするケースも多いという。
対照的に、漢民族が多い北京市の規制は、当局は申請受理から15日以内に一般旅券を発給しないといけない、と定めている。
チベット人などに対し、中国政府が差別的な旅券政策を続ける理由についてHRWは、国外で開かれる「ダライ・ラマ14世による布教の会」への出席などを阻止するため、と指摘する。ダライ・ラマ14世の影響力を排除したい中国政府の思惑があるとの見方も強い。「これは信教の自由に対する違反。中国当局は速やかに、露骨に差別的なこの旅券制度を撤廃すべきだ」とHRWのソフィー・リチャードソン中国部長は訴える。
ただ政府関係者は、チベット自治区の住民に対する旅券発給禁止措置の存在を否定。手続きがより複雑なため時間がかかっているだけ、と説明している。