「フィリピン人がみんな好きなゲーム、それは『ダマ(Dama)』だ」。ガードマンのシャーウィン・バイロンさん(27)はこう言い切る。その人気ぶりは、性別や年齢、社会的地位を問わない。まさにフィリピンの“ナショナルゲーム”だ。
ルールは単純。チェスのボードと同じ縦横8マスのボードの上に12個ずつのチップを並べる。相手のチップを飛び越えると、それが自分のものになり、最終的にチップを多く取ったほうが勝ちになる。2人で対戦する。
Damaは、家族や友人同士でのプレイはもちろん、ジプニー(乗合バス)やトライシクル(自転車にサイドカーがついた乗り物)の運転手らが休憩中に遊ぶのも定番。驚くのは、葬式や刑務所でも“賭けDama”がふつうであることだ。チップがなければ、缶や石、たばこなどで代用することがある。
Damaと葬式の関係についてフィリピン・セブ市のウエスト・ゴロルド・ホテルで働くマイケル・アニェロさん(33)は「Damaは葬式には欠かせない。なぜなら楽しいし、時間も潰せるから」と説明する。フィリピンの葬式は長い。短くて1週間、場合によっては1カ月続くこともある。故人の親せきや友人が入れ代わり立ち代わり故人の家を訪ねてくるが、集まった人たちは、酒を片手に、数百ペソ(500~1000円)を賭けてDamaに熱中する。Dama以外にも、麻雀やトランプなどがポピュラー。フィリピンで葬式といえば悲しみではなく、「賭け事」だ。
刑務所でもDamaの人気は抜群。ボードがなければ、机に直接、碁盤の目を彫ってDamaをする。囚人もDamaのギャンブルが好きだという。
Damaをするのは大人だけではない。小学校では算数や理科の授業でDamaを使う。それを「Damath」「Sci-Dama」とそれぞれ呼ぶ。通常のDamaは、チップは無地、ボードにも線しか入っていないが、教育用のDamaは、チップには3ケタまでの数字が、ボードのマス目には「+」と「-」の記号が入っている。ゲーム形式で楽しく、足し算・引き算を子どもたちに練習させるのが狙いだ。
通常のDamaは取ったチップの枚数で勝敗がつくが、教育用は、チップの数字を足し引きした結果で決まる。Damathは数字が多いほうが、Sci-Damaは小さいほうが勝つ。
セブ市の小学校では2014年9月は「理科の月」となっている。市内のテヘロ小学校では理科イベントが目白押し。そのひとつがSci-Damaのコンテストだ。セブ市のすべての小学校から、Sci-Damaの代表が集まって9月17日にはチャンピオン決定戦が行われた。