エジプトというと、読者の皆さんは「ピラミッドの国」という単一的な固定観念が強いかもしれません。しかし実は、この国にも多くの民族が住み、多様な文化・慣習がいまも残っています。今回は、私が暮らすエジプト紅海県(面積は東京都のおよそ半分)を例に、エジプトの多様性と女性について書いてみたいと思います。
県都ハルガダから南へ約650キロメートル行くと、スーダンとの国境の近くに、シャラテーンという町があります。ここではエジプト人、ベドウィン、スーダン人が入り混じって生活しています。
ベドウィンとは、アラブ系の遊牧民のことです。アラビア半島を中心に、ラクダや羊を放牧し、その売買や輸送の仕事などで生計を立てています。映画「アラビアのロレンス」の世界といえば、イメージしやすいかもしれません。
ベドウィンは、エジプトではシャラテーンをはじめ、マルサ・マトルーフやワーディ・ゲディード、シナイ半島で暮らしています。生活スタイルの変化やエジプト政府の定住政策などにより、ほとんどのベドウィンはかつてと違う暮らしをしているようですが、シャラテーンのベドウィンはいまもなお遊牧を続けています。
シャラテーンには、ベドウィン女性を援助するNGO「タンメイヤ」があります。ベドウィンの女性たちは、独特の模様を施したパッチワークやじゅうたん、草を使った編み物などを伝統的に作りますが、タンメイヤは、こうしたベドウィンの文化を継承していくことと、現金収入を向上させることを目指しています。
ベドウィンの女性たちは、一般的なエジプトの女性とはファッションもしぐさも異なります。ベドウィンの働く女性たちは、「一色」だけで鮮やかに染めた服を着ています。髪型は、前髪を三つ編みにしているのが特徴です。ヒジャブ(髪の毛を隠すためのスカーフ)から少しだけ髪をのぞかせるのが“おしゃれのポイント”のようです。
「その三つ編み、かわいいですね」。私がこう褒めると、ベドウィンの女性たちは、照れたようにその三つ編みをヒジャブの中にさっと隠しながら、「私の三つ編みがかわいいって」と仲間内で嬉しそうに話していました。
シャラテーンにはベドウィン博物館があります。いまはまだ、展示用の民芸品を作るのに精一杯とのことでしたが、将来的には土産屋を併設する計画をもっています。消えゆくベドウィンの文化をいかに継承していくか、自らの文化にベドウィン自身がいかに誇りをもてるか――これが大きなテーマだと私は説明されました。
ベドウィンたちは毎晩、「ギャバナ」と呼ばれるスパイスの効いたコーヒーを野外で飲みます。シャラテーンの星空を見上げながら、ギャバナをすすっていると、ふと次のような思いが私の頭をよぎりました。
エジプト女性を支援する、と択一的にいうのは簡単ですが、世界が多様であるように、エジプトにも異なる民族や文化があります。言い換えれば、貧しさからの脱却を求める人もいれば、文化を継承することで民族の誇りを維持したい人もいるのです。
もっというと、自分が求めるモノ・コト(支援のニーズ)が何かわかっているエジプト人女性もいれば、そうでない人もいます。ボランティアにとっては、多種多様なエジプト人女性自身がどんなモノ・コトを欲しているのか、をそれぞれ明確にさせるのも大事な仕事です。文化に多様性があるように、支援のニーズもひとつではない、と私は改めて気づかされました。