ストリートチルドレンが“ボス”に納める「上納金」。この実態について、12月11日付ガーディアンは興味深い記事を掲載した。この記事を参考に、セネガルのストリートチルドレンの暮らしぶりと彼らを取り巻く社会の状況を考えてみたい。
■稼ぎが悪いとむち打ち
セネガルではストリートチルドレンを「タリベ」と呼ぶ。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、タリベは、セネガル全体で5万~6万人いるという。6割はセネガル人だが、残りの4割は、ギニアやギニアビサウ、ガンビア、マリ、モーリタニアなどの近隣国から、首都ダカールに「連行」されてきた子どもたち。いずれも貧しい農家の出身だ。
タリベのボスとなるのが「マラブー」(イスラム指導者)。マラブーは、清貧な行いを重んじるイスラム一派「スーフィー・イスラム同胞団」の一員だ。スーフィー・イスラム同胞団とは、師に従い、ぼろ着をまとって修行に励む人・精神的共同体を指す。
タリベは、物乞いするようマラブーに強制される。最低でも1日400CFA(約80円)を稼ぎ、砂糖やコメを恵んでもらわないと、マラブーにムチでぶたれるという。しかも稼ぎはすべて上納金としてマラブーに吸い取られる。タリベの“仕事”は「最悪の強制労働」「奴隷制度」などと揶揄されるゆえんだ。
タリベはなぜ、多く存在するのか。
12歳のあるタリベは、セネガルの南隣の国ギニアビサウの貧農出身だ。少年の父親には妻が2人いる。子どもは8人。口減らしのため、「イスラム教育を受けさせる」ことを口実に、親は、彼をマラブーに預けたという。彼はダカールで1年、物乞いをしたが、その後、子どもを保護するシェルターに逃げ込んだ。
■喜捨が搾取を下支え
タリベを預けられるマラブーは悪党なのか。50人のタリベを抱えるマラブーは語る。「彼らの生活費はどうやって稼ぐのか。政府は何も援助してくれない。子どもたちは貧しい家から来ている」
ただ実際は、マラブーらはタリベに上納金を納めさせ、それを平気で自分のために使っているとの批判は根強い。マラブーの子どもは、きれいな服を着て、車で通学しているともいわれる。
重要なのは、タリベ・マラブー関係を下支えする要素は、貧困だけではなく、イスラム教の伝統である「富める者が持たない者に施す」というお布施の精神が絡んでいることだ。
イスラム教徒は朝、タリベに小額のお金を施すことで、きょう1日を幸せに過ごせると信じている。タリベもそれを知っていて、朝は道端で物乞いに精を出す。これは言い換えれば、貧困と宗教の結びつきが、タリベ・マリブー関係によって生じる搾取の背後にあることを意味する。
セネガル政府にとって、この問題は長くアンタッチャブルだった。スーフィー・イスラム同胞団のマラブーは、政治力が強いからだ。ところがセネガル政府は、この問題への対応を少しずつ変化させつつある。
セネガルでは2005年、「利益を搾取するために、他者に物乞いをさせてはならない」とする法律が成立した。これは物乞いを「違法行為」とする画期的なもので、違反者には懲役2~5年と罰金が科されるとの条文が盛り込まれた。ところが、お願いやおまじないを成就させるために喜捨をする人が後を絶たず、結局、当時のアブドゥライ・ワッド大統領はこの法律を撤回した。
セネガルの警察は時々、マラブーを取り締まっているようだ。2010年にはマラブー7人を逮捕した。その日の夜は、路上にあふれるタリベの数が減ったといわれる。ただ政治的な影響を懸念し、マッキー・サル大統領はタリベの問題についてあまり触れようとしない。
あるタリベは、政治家になるという夢をもっている。そして続けた。「政治家になったら、タリベたちを解放し、マラブー全員を牢屋に入れてやる」(今井ゆき)