少数民族にも「出生証明書」の発行を! IDBがラテンアメリカ諸国に要請

米州開発銀行(IDB)は、ラテンアメリカ・カリブ地域の政府に対し、少数民族にも「出生証明(登録)書」を発行するよう求めた。出生証明書をもっていないと、教育を受けられなかったり、保健衛生サービスへのアクセスが制限されたり、また年金が支給されないなど、生きていくうえでさまざまな「障害」にぶつかる。法的に存在しない“透明人間”であるゆえに、人身売買や搾取に遭うリスクも高まるといわれる。

国際NGOフォスター・プランによると、ホンジュラスやグアテマラ、コロンビアなどの政府は、少数民族に出生証明書を発行していないという。また、発行する国であっても、手続きの複雑さや有料などの理由から、証明書をもてない少数民族が多いのが実情だ。

国連児童基金(UNICEF)の2010年の調査によれば、ラテンアメリカ・カリブ地域では、およそ1割の子どもが出生証明書を所持していない。このほとんどが少数民族と少数民族以外の貧困層だ。出生証明書をもっていない割合は人口比で、ボリビアやドミニカ共和国で20%、中進国のチリやウルグアイでも1%にのぼる。

ドミニカ共和国では、出生証明書がなくても小学校に入学できる。ただ卒業する際には出生証明書が必要で、実際、出生証明書のない子どもの40%は卒業していない。「出生証明書の取得は、社会で生きていくために不可欠なもので、人生最初のステップ」とIDBの担当者は言う。

出生証明書の有無による不平等を改善しようと、パラグアイ政府は2010年から「出生登録キャンペーン」を開始した。この成果として87歳の高齢者を含む30万人を新たに登録したが、それでもいまだに100万人以上の「無登録の国民」がいるといわれる。パラグアイ政府は、無登録の国民を2012年までに25万人に減らすことを目標に掲げる。

だが、ラテンアメリカ・カリブ地域よりひどいのが、サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカと南アジアだ。UNICEFによると、データを収集できた世界111カ国の出生登録率は50%未満だが、両地域の5歳未満児に限れば3人に2人が出生登録されていない。こうした事態を重くみたインド政府は、出生登録の手続きを簡略化。この結果、出生登録率を以前の19%から58%に引き上げることに成功した。

出生証明書をもっていないことは、一生にわたって社会から疎外され続けることを意味する。IDBは、少数民族や貧困層が出生証明書を所持していないのは「政府の責任」として、ラテンアメリカ・カリブ地域の政府に対し、少数民族や貧しい人に出生証明書をもたせ、国家開発に参加させるよう促している。