「お金を使わないからこそ長続き」、国連フォーラム成功の逆転的発想

インタビュー中の田瀬和夫国連フォーラム共同代表。常設のオフィスはないので、ニューヨークのレストランで撮影

国際協力の分野に携わる人や興味を持つ日本人にはなじみの深い民間ネットワーク「国連フォーラム」。2004年の設立後3年で月平均ウェブアクセス数が1万を優に超え、メーリングリストの登録者数は2014年までに6000人。国連・外交関係者や専門家のみならず、多くのメディアや学生などに利用され、着実に成果を挙げてきているが、実は、その活動にかかる費用はほぼゼロ。そこには、「お金がないと何もできないという考えは間違っている」(田瀬和夫共同代表)という概念が確立していた。

幹事たちは完全ボランティア

設立地のニューヨークのみならず、東京や大阪などでも活動を展開する国連フォーラムは、勉強会、識者へのインタビューなど10以上の企画を運営している。その中心にいるのは約50人の幹事たち。彼らのバックグラウンドは国連や民間企業に勤める社会人から大学院生など様々で、年齢層も20代から50代と幅広い。それぞれ担当する企画チームで、インタビュー記事の編集、イベント準備、オンライン会議などの作業に携わる。熱心に活動している幹事たちだが、彼らの報酬はゼロだ。

なぜ無償でここまでするのか。2011年から幹事を務める上川路文哉氏は「国連フォーラムにはお金以外に得られるものが明確に持てる仕組みがある」と説明する。フォーラムでの活動を通して、普段敷居の高い外務省、国際協力機構(JICA)や国連の職員、大学などの研究者たちと直接会うことができ、彼らの個人としての自由な発言や経験談を聞けるだけでなく、議論を戦わせることもできる。上川路氏自身、過去1年だけで、勉強会の企画・開催の打ち合わせなどを通して国連日本政府代表部の矢島理恵一等書記官や国連安保理イラン制裁委員会専門家パネルメンバーの鈴木一人氏を含む十数人の専門家と出会い、新たな関係を築くことができたという。

■勉強会の講師も無報酬

月に1、2回の割合で開催されている勉強会の講師達も無報酬。これまでにベルリッツコーポレーションの三木貴穂副社長やNHKの小山靖史チーフディレクターをはじめ、JICA、外務省、国際機関の高官や大学院教授などが講演してきたが、彼らに対しては、講演費どころか交通費なども一切出さないという。

これについて、創設メンバーの一人で、現共同代表の田瀬和夫氏は「講師というよりも、知り合いが仲間の中で話を共有する、専門家たちにその分野での最先端を共有してもらう、という感覚でやっているから」と述べる。自分の知識、主張をみんなにシェアしたいという熱い思いをもった各界のリーダーや専門家たちに、国連フォーラムが勉強会という場を提供し、参加者全員が恩恵を受ける、という形だ。

■実務費用は発生させない!

さらに、勉強会などの会場は、米国のコロンビア大学の施設の一室や、幹事たちの勤務先の会議室など、その都度無料で借りられるところを利用。ウェブサイトの運営も、現在使用しているドリームウィーバーで費用が発生してきたので、無料のワードプレスへの乗り換えを現在検討中。どうしてもお金が必要な場合は、オンラインでのポイントを使うようにするなど現金の授受は避け、メーリングリストも8人の幹事が24時間態勢で管理し、営利目的のものは徹底的に排除している。

■お金をかけないのが持続の秘訣

そもそも、なぜお金を介在させないのか。田瀬共同代表は、人材にしても場所にしても無料のリソースが存在することから「何よりもまず、お金をかける必要がない」と述べた上で、「持続性の観点から言うとお金をかけない運営が一番」というユニークな発想を展開。なぜなら「お金を使うとそれを管理する組織が必要になり、継続的にお金を集めなければならないため、お金が集まらずに長続きしなかった例は山ほどある」からだ。

金銭を介在させない独自の運営スタイルを確立してきた国連フォーラムだが、今後もこの方法を続けていく中で、予測される課題もある。例えば、国連とビジネスの企画でビジネスコンペティションを開催する場合、企業の協賛を得るのか、商品をどうするかなどの疑問があがってくるかもしれない、と田瀬氏は懸念する。いずれにしろ、中立性を保つため「現金をもらったらアウト」という考えで話を進めていくそうだ。