フィリピン・セブのテヘロ地区で9月8日、セブ市当局によりスラム街のうちの一軒が破壊された。現場にいた隣人の女性は「セブ市は腐敗しているわ。人間の権利が失われているの」と叫び声をあげた。市当局はその声に耳を傾けることなく、壊していった。
この地区にはセルヒオ・オスメーニャ元大統領の夫人の墓地がある。その周囲には不法に住む人々がいる。
強制撤去作業が始まったのは午前9時過ぎ。この地区のリーダー格の男性、リチャード・ヴェルシカさんの家に、セブ市が派遣するスタッフおよそ30人が到着。2階建ての家を壊し始めた。この家の1階は小さな飲食店。まだ家の中に人がいるのにもかかわらず、みるみるうちに取り壊し始めた。2階の屋根には6、7人の当局の職員が、トタンで作られた屋根を次々にはがしていく。家の中にも職員は入り込み、ハンマーを片手にして壁をぶち破いていく。ものの20分で2階部分は骨組み状態となった。
セブ市当局の代表者は「ここはもともと公有地。墓地は死んだ人が眠る場所であり、生きている人が眠る場所ではない」と自分たちの行為に理由付けした。
家を壊されているさなか、セブ市当局の代表者を住民が取り囲んだ。「(強制撤去についてセブ市と)交渉は成立していない。勝手に壊すな!」「ここの住民には持病がある! なんてひどいことをするのか!」といった怒りの声が聞こえた。
これに対して市当局は「すでに市民とセブ市の交渉は終了している。そもそも、交渉する部署と家を壊す部署は異なるため、(家を壊す部署の)私に文句を言われても困る。私は私の仕事を遂行しているだけだ」と答えた。
強制撤去を受けた家族は市当局に壊されていく家を黙ってみていた。それを見て励ましの声をかける住民たち――。
家を壊された家族に対して市は1万ペソ(約2万3000円)の補償金を支払う。「1万ペソはたったの3週間ほどでなくなるよ」と家を破壊された住民は言う。自営業で生計を立てていた家族にとって、持ち家もなくし、職もなくし悲惨な状況にある。強制撤去後の移住先は、電気も水道も通っていない。
政府による強制撤去はセブ市で珍しいことではない。そのたびに貧しい人は家をなくし、その結果、路上生活を余儀なくされる人が増えていく。市民の生活を守るはずの政府が市民を苦しめている実態がセブにはまだある。