セブのスラム住民が土地代を払う 立ち退き回避なるか

自慢のお店を紹介するジェニファーさん。自宅に隣接している

フィリピン・セブ市テヘロ地区アガイアイの住民らは10月から、セブ州政府に土地の使用料を毎月支払う。アガイアイでは第二次世界大戦前から、土地の所有権をもたない多くの人が暮らしてきた。この土地の持ち主であるセブ州政府はこのため、彼らを強制移住(リロケーション)プロジェクトの対象としてきたが、住民らは、土地の使用料を払うことで立ち退きの対象から外してもらいたい考えだ。

土地使用料の支払いを決めたのは、8月に開かれた住民同士のミーティング。隣の地区ではすでにセブ市によるリロケーションが行われている。多くの家屋が解体されているのを受け、アガイアイの住民のほとんどはセブ州に毎月2500~3000ペソ(7500円~9000円)を支払って居住し続けることに賛成した。10月から25年間払い続ける。

アガイアイの住民のひとりジェニファー・クエルビンさん(38歳、女性)の月収はわずか1000ペソ(3000円)。高校生3人と幼児1人を抱えるため、生活は楽ではない。土地使用料は彼女にとって高額だ。「1日およそ500ペソ(1500円)ほどの、父親のタクシードライバーの収入のおかげで、なんとか払える」と話す。

アガイアイにこだわる理由についてジェニファーさんは「生まれてからずっとこの場所で暮らしてきた。これからもここで生きていきたい」と説明する。根底には地元愛の強さがある。ジェニファーさんによると、住民のほとんどはアガイアイで生まれ、アガイアイで命を全うすることを希望する。近くに住む伯父のダンテさん(無職、61歳)も、ここで生まれ育った。「アガイアイは一番だ」

ジェニファーさんは「もし生まれ変わったとしても、アガイアイで暮らしたいわ。子どもたちも同じだと思う」と語る。

住民同士がみんな知り合い、というのも、この場所を離れがたい理由のひとつ。彼女は自宅の一角で、日用品や軽食を出す店を経営している。客のほとんどは顔見知りだ。

土地使用料の支払いは、失業などで困難になる恐れもある。なにより立ち退きも、アガイガイのすぐ近くまで迫っている。土地料の支払いで、住民はコミュニティを本当に守りきれるか。今後の動向に注目だ。

アガイアイでの生活を話してくれたジェニファーさんとダンテさん。一緒に写ってくれたのは通りすがりの近所の子ども

アガイアイでの生活を話してくれたジェニファーさんとダンテさん。一緒に写ってくれたのは通りすがりの近所の子ども