「夢は(小さくてもいいから)コンクリートの家に住むこと」。これは、フィリピン・セブ市のカルボンマーケットの横で暮らすレイヤーさん(30歳、女性)の言葉だ。レイヤーさんの家は沿岸に建つバラック。広さはおよそ7畳。ここに夫と4人の子ども、2人の弟の計8人が住む。トタンの屋根は穴だらけで、「雨の日は、家の中にいるのに、立って雨宿りしているわ」。床は土で、前日の雨のせいかぬかるんでいた。
夢を語るレイヤーさんの表情は幸せそう。「(生後8カ月の)の赤ん坊のオムツすら買えない」と生きることに必死であるにもかかわらずだ。
一方、日本人はフィリピン人に比べて収入は高い。だが、総務省「第6回世界青年意識調査」によると、現在の生活に満足している日本人の割合はたったの5.8%。フィリピン人の26.9%のおよそ5分の1だ。庶民のフィリピン人が、人間として“最低限生きる”といったシンプルな夢を描いているのに対し、日本人は大学生を例にとっても「マッキントッシュ」「有名な大企業への就職」「最新のIT機器」を求めるなど欲望に切りがない。“求めるもの”が多すぎるぶん実現率も下がり、満足度(幸福度)が低くなりがちとの指摘もある。
レイヤーさんはかつて、カルボンマーケットの一角で暮らしていた。しかし2012年に起きたガスコンロが原因の火災のため家が全焼。現在暮らすバラックを作った。「コンクリートの家を建てる」という夢をかなえるにはおよそ5万ペソ(約13万円)が必要という。しかし彼女は、銀行でお金を貯めるのではなく、銀色の空き缶を貯金箱代わりにしている。その日の収入に余裕があるときは10ペソ(約23円)のコインをこつこつと貯めていく。「今はまだ、たぶん2000ペソ(約4600円)ぐらいしかない」。目標までの道のりは遠そうだが、悲壮感はない。
レイヤーさんにはもうひとつの夢がある。子どもたちを大学に行かせ、高収入の仕事に就かせることだ。「私の学生時代の夢は先生になることだった。しかし両親の死と一人目の子どもの出産が重なって、大学を中退した。子どもたちには、バラックでの生活を続ける私のような人生を歩んでほしくない。子どもの可能性を狭めない。それは母親として当然なこと」