いじめを減らす、フィリピンの助けあい精神

フィリピン・タリサイ市の小学校。いじめから友だちを守るのは、友だちの役目だ

世界保健機関(WHO)の2012年のデータによると、フィリピンは10万人中2.9人しか自殺しない(日本は18.5人)。その理由は、悩み事を話せる人、解決をしてくれる人が身近に存在するからだ。フィリピン人はバルカーダ(仲間)を大事にする。これが、いじめを自殺に発展させない肝となっている。

フィリピン大学(UP)セブ校に通うクリスチャン・エズフーラさんは小学生のころ、身長が低かったために、クラスメートにバカにされていた。家に引きこもった経験もある。日に日に積もる愚痴を聞いてもらったり、ストレス発散のために一緒に遊んでくれたり、いじめっ子を説得してくれたのが、クリスチャンさんのバルカーダだった。バルカーダは、友だちの集団のことで、困ったことがあれば助けあう。クリスチャンさんは、このバルカーダに救われたのだ。

UPセブの大学生アイリーン・マラバーさんは「私は小学生のころ、休み時間のたびにちょっかいを出されたわ」と振り返る。すれ違うたびに、友だちから髪の毛を引っ張られたり、悪口を浴びせられたりした。だがおとなしい性格だったために、いじめが止まらなかったという。アイリーンさんの母親がいじめっ子を叱ってくれたことで、鬱な気分から解放された。

この経験は、現在のアイリーンさんの行動につながっている。大学には、いじめられている友だちがいる。その友だちは内向的なので、ターゲットにされる。アイリーンさんは、いじめっ子が何かを企んでいるところを見つけたら、友だちの傍に寄ったり、いじめっ子を別の場所に誘導させるよう仕向けたりするという。「昔の私と同じだから見放せない。友だちだしね」と説明する。

フィリピンには、日本の「自殺予防いのちの電話」のようなコールセンターはない。そのため、ストレスをため込んでしまうと思いきや、そんなことはない。なぜならフィリピン人は話し好きで、いろいろなことを友だちや家族に相談するからだ。

「家族とならなんでも話すわ」と2児の母親、メロディ・モンダスさんは言う。5カ月前に私立の小学校から国立の小学校へ子どもたちを転校させたが、その理由は、子どもから相談があったからだ。小学2年生の子どもは、以前は学校になじめず、ひとりでいることが多かった。「イジメられる危険もあったし、成長の妨げとなると思ったから」と先手を打った。転校後、子どもの表情が生き生きと変化したことにメロディさんは満足している。

いじめによる自殺が社会問題化している日本では、政府主導でいじめ対策が行われている。だが効果のほどは不明だ。自殺率を減らす、いじめをなくすことを政策として進める前に、家族やバルカーダのような関係を厚くすることが重要だとフィリピンは教えてくれる。