イスラムへの冒涜罪があるパキスタン、キリスト教徒への恨みを晴らすため悪用するケースも!

パキスタンで暮らすキリスト教徒が直面する差別について話すズバイダ・シャミム・デワンさん(左)

宗教による差別をなくすために活動するパキスタンのキリスト教系NGO「グローバル・ヒーリング・イニシアティブ・パキスタン」のズバイダ・シャミム・デワン代表は10月18日、大阪市内で講演し、パキスタンでキリスト教徒が迫害されている根深い事実を訴えた。

キリスト教徒に対する差別の“象徴”となっているのが、イスラム教に対する冒涜罪だ。キリスト教徒がイスラム教や預言者を汚したり、コーランを破損したりした場合、適用される。最高刑は死刑または終身刑だ。

「問題なのは、冒涜行為を働いていなくても、個人的な恨みを晴らすために利用されるケースもあることだ」とズバイダさんは説明する。パキスタン東部の街ラホールの郊外で暮らすキリスト教徒の夫婦が2014年、コーランを冒涜した疑いにかけられた。人権委員会によると、事実無根で、恨みを晴らすために冒涜罪が利用された疑いがあるという。この夫婦とイスラム教徒との間には金銭トラブルがあった、と同委員会は見ている。

冒涜罪で有罪とならなくても、疑いにかけられるだけで、イスラム教がキリスト教徒の家族や彼らが暮らす村をターゲットに、“報復攻撃”をするケースも少なくない。こうした行為は違法だが、まん延している。ズバイダさんが活動するラホールでも2013年に、3000人のイスラム教徒が暴徒化し、100軒の民家を焼き払った。キリスト教徒の清掃作業員がイスラム教を冒涜する発言をしたことがきっかけとされる。「教会への放火、キリスト教徒への暴力、殺害が横行している。トラクターに足を結ばれ、引きずり殺された人もいる」とズバイダさんは話す。

グローバル・ヒーリングはかねて、信仰する宗教が異なる者同士の対立をなくすため、キリスト教徒とイスラム教徒のリーダーが集う会議を開いたり、キリスト教徒の迫害に抗議したり、さまざまな宗教を理解するセミナーを開催したりしてきた。こうした活動は、脅迫や冒涜に問われるリスクをはらむ。パキスタンでは2011年に、キリスト教徒として初めてシャウバズ・バッティ氏が大臣に就任したが、同氏は、冒涜罪の存在を批判したため、イスラム教徒に脅迫されたのち、暗殺された。

危険を冒してまでズバイダさんがNGOを立ち上げたのには、高校生の時の経験がある。隣の村が、イスラム教を冒涜したとしてイスラム教徒から報復攻撃を受け、焼き討ちにあった。「高校生の自分には何もできなかった。なぜ同じ人間に攻撃されるのか理解できなかった」

キリスト教徒への差別は暴力的なものだけにとどまらない。ズバイダさんは、NGOで活動するかたわら、病院で事務職として働く。ところが「毎年の昇給率は、キリスト教徒の場合、イスラム教徒の10分の1だけ」と打ち明ける。

パキスタンの国教はイスラム教。国民の98%がイスラム教徒で、キリスト教徒は2%以下。