「奇妙なやつら」「物ごいでカネを得るためにたくさんの赤ちゃんを利用している」「教育を受けず、楽をしてカネを稼ぐ怠け者」
これらの発言は、フィリピン・セブ市マンバリン地区で暮らすバジャウ族のイメージを複数のセブ市民に尋ねたところ、返ってきた答えだ。ひどい場合は「バジャウ」と耳にした途端に笑う人も。「バジャオ」は差別用語と化している感すらある。
バジャウとは元来、フィリピン南部のスルー海で舟の上で暮らしてきた少数民族。フィリピン政府の定住化政策を受け、その一部が集まって住むコミュニティーがマンバリンにある。
マンバリンのバジャウがサリサストア(庶民向けのコンビニ)を出店できるよう基金を作ったセブ在住の松田大夢さん(20)は「バジャウの人たちはセブの街中を歩くだけで、『バジャウ! バジャウ!』とバカにされる。子どもたちの切なそうな表情に悲しくなった」と憤慨する。バジャオの容姿は平均的なセブの人たちとそう変わらないが、現地の人は服装や顔つきでわかる。
日常的に差別にさらされるバジャオはこのため、まっとうな仕事に就くことが難しい。生計を立てる手段は、貝殻や真珠、古着を売ったり、物ごいをしたりするのが一般的だ。生活は厳しい。
バジャオが定職に就けない理由は「差別」だけなのか。実は、魚を捕ることを生業としてきたバジャウの伝統を背景に、教育を受けさせる必要性が認知されていない問題もある。
マンバリン在住で水産業を営むティモシー・ジェームスさん(33)は「バジャオは教育を受けてない。だからインフォーマルセクターの仕事にしか就けない」と指摘。またタクシードライバーのバグン・サティンさん(42)は「教育に対する親の理解がない。それで子どもに教育を受けさせないのだろう」と話す。
マンバリンのバジャウの間では実際、子どもを学校に行かせない親が多い。子どもたちは親と一緒に路上で物ごいをして1日を過ごす。こうした行為は、バジャウのイメージをいっそう悪くさせ、差別を助長する悪循環を生む。
「おれは昔のように海で魚を捕り、メシを食べていきたい」。バジャウのエファン・スマラニさん(55)は心の声をこう漏らした。マンバリンのバジャオは定住と引き換えに“近代的な家”を与えられたが、漁師から物ごいに“転身”せざるをえないという苦悩に陥っている。