IS対策を考える前に「イラク情勢にアンテナを!」、イラク人質事件の高遠菜穂子氏が訴え

「欧米では大きく報道されるイラク情勢が日本では軽視されていることに愕然とする」と話す高遠菜穂子氏

イラク西部のファルージャで2004年に武装勢力に拘束された高遠菜穂子氏(45)が11月14日、イスラム国(IS)や日本の報道のあり方をテーマに奈良県大和郡山市で講演した。イラクで12年にわたって支援活動を続けてきた経験から「IS対策を考える前に、日本は『情報鎖国』を克服すべきだ」と訴え、イラク情勢を深く知る必要性を強調した。

高遠氏によると、海外に比べ、日本ではイラクの報道が少ない。国内少数派のヤズディ教徒が多く暮らすイラク北部の街シンジャルが2014年8月、ISに襲撃され、ヤズディ教徒3万人がシンジャル山に立ち往生した。50度を超える酷暑の中、水も食料もなく、国連の推定では200人以上の子どもが脱水で死んだ。

また、数百人のヤズディ教徒の女性が同月、ISに誘拐され、性の奴隷として売買された。BBCやCNNなど海外メディアはヤズディ教徒がISに襲撃され、シンジャル山で包囲されている様子を繰り返し報道していたが、「日本ではほとんど報道されなかった」と高遠氏は語る。

高遠氏はまた、武力行使をしない日本の姿勢についても言及。「武力行使を否定するのなら、情勢が泥沼化する前に手を打つべきだ。そのためにはテロを生み出す各国の背景を理解することが必要。知らなければ何もできない」と指摘する。日本のメディアは、ISが生まれた詳しい背景を報じない。「泥沼化したイラク情勢を知るためには、日本語の報道だけでは不十分。日本は情報鎖国状態にある」と語気を強める。

高遠氏はさらに、日本のイラク戦争のとらえ方についても問題視。2003~11年のイラク戦争を主動した米国や英国は、イラク戦争を検証し、イラク戦争は間違いだったと認めたのに対し、「イラク戦争を支持した日本はこの戦争の検証を十分にせず、誤りを認めないまま安保法制の議論をしていた」と強い危機感をあらわにした。

情報鎖国を克服するには、日本人一人ひとりが日本を外から見る努力が欠かせないと高遠氏。「スマートフォンを使えば、日本語以外の情報に簡単に触れられる」と講演を締めくくった。