国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)はこのほど、「トルコで暮らすシリア難民の子どもの3分の2以上が小・中学校に通えていない」とする報告書を発表した。トルコに逃れたシリア難民200万人超のうち、学齢期の子どもは70万8000人。通学しているのはこの3分の1以下の21万2000人だ。難民キャンプで生活する子どもの就学率は90%近くに達する半面、キャンプの外ではわずか25%にとどまっている。
HRWによると、トルコ政府は2014年9月、登録済みのシリア難民全員に公教育へのアクセスを認めると発表した。ところがそれから1年以上経ったいまも成果は挙がっていない。その理由としてHRWは「言葉の壁がある」、「(シリア難民とトルコ人との)社会統合がうまくいっていない」、「シリア難民が経済的な苦境に追い込まれている」、「トルコ政府の政策が周知されていない」の4つを指摘する。
言葉の壁とは、アラビア語を母国語とするシリア人にとってトルコ語を理解することの難しさを指す。トルコ語の学習をサポートする特別なプログラムは学校にない。加えてトルコ人から学校でいじめられ、退学するシリア人の子どももいるという。
経済的な苦境を生み出す背景にあるのは、シリア難民がトルコ国内では正規の仕事に就けないことが大きい。親の稼ぎでは一家が食べていくのに不十分。結果として児童労働がまん延することになる。
「シリア難民に教育を与える」とするトルコ政府の政策の周知も足りない。公立校への入学手続きを把握していないシリア人家庭があったり、シリア人の入学申請を学校が誤って拒否したりといったケースも聞かれる。
シリア難民が教育を受けられる場として、トルコ政府は公立校以外にも、慈善団体や地域社会が運営するアラビア語教育施設「一時教育センター」を認可している。だがセンターの数は少なく、多くの子どもを受け入れるのは不可能。また授業料がかかったり、交通費がかさんだりすることもあり、経済的に厳しいシリア人家庭にとってセンターの利用は難しい。
シリア難民に教育を与える重要性を認識するトルコ政府は10月2日、2016年1月までにシリア人の子ども27万人の、2015年度末までには37万人の通学実現を目指すと打ち出した。しかし目標を達成するには財源の確保が欠かせないのが実情だ。
トルコ政府によると、同国は2011年に勃発したシリア紛争以来、シリア難民対策に70億ドル(約8400億円)以上を注ぎ込んできた。教育に限っても2014年度の支出だけで2億5200万ドル(約300億円)にのぼる。
こうした事情からHRWは「国際社会も、シリア難民の教育に財政的、技術的支援をすべきだ」と強く訴える。またトルコ政府に対しても「言語面でのサポートをはじめ、『難民教育』を担う教師を研修したり、シリア難民が労働許可証を得て、最低賃金が保障された安定した職に就けるようにしたりすることが必要」と要望する。
シリア国内の就学率は紛争前、小学校で99%、中学校は82%だった。HRWは「シリア難民の子どもに教育を保障することは、若すぎる結婚や武装勢力に兵としてリクルートされるリスクを減らすことにつながる」とメリットを強調する。