カンボジア・シェムリアップ市に隣接するバコン郡のごみ山で、バナナを活用した雇用創出プロジェクトが進行中だ。題して「バナナペーパープロジェクト」。一般社団法人Kumae(福岡県岡垣町)が立ち上げた。ウエストピッカー(ごみ拾いで生計を立てる人)を雇い、貧困層がごみ山で働かなくてもよい環境を作るのが目的だ。
バナナペーパーとは、通常廃材となるバナナの幹から繊維を取り出して作った紙のこと。厚みがあり、和紙のような手触りが特徴だ。カンボジアではバナナを年中収穫できるため、幹1本の仕入れコストは500~1000リエル(約20~40円)と格安。バナナペーパーは便せんやはがきに加工し、シェムリアップ市内のマーケットや土産屋で1枚1.5ドル~3ドル(160円~370円)で販売している。日本からも購入可能だ。
このプロジェクトでKumaeが雇うのは18~33歳の女性5人。労働時間は1日8時間、週6日。スタッフのひとりは「ごみ山はとても汚い。体を壊したくないから、ここで働き始めた」と話す。手にする月収は、ごみ山周辺の労働者(40~60ドル=4900~7400円)より高いという。Kumaeは3年以内に100人の雇用創出を目指している。
バコン郡のごみ山では現在、推定120人のウエストピッカーが働く。Kumaeの調査によれば、ウエストピッカーの月収は60~120ドル(7400円~1万4800円)と、ごみ山周辺の仕事よりも良い。このため「高収入」を目当てにウエストピッカーに転職する人は後を絶たないという。
このごみ山には1日180トン(10トントラックで換算すると約18台分)のごみが運ばれてくる。使用済みの注射器が落ちていたり、プラスチックを燃やすことによる大気汚染がひどかったり、環境は劣悪だ。Kumae代表の山勢拓弥氏は、初めてごみ山を訪れたときのことを「この世とは乖離した世界だと思った。ここで働く人たちが不思議だった」と振り返る。
バコン郡は、シェムリアップ市へ働きに出る若者が多いため過疎状態にある。世界遺産アンコールワットを武器に観光客を呼び込み、発展を続けるシェムリアップとの経済格差は広がる一方だ。山勢氏は「バナナペーパーでバコン郡の経済を底上げし、地域活性化を図りたい」と日々奮闘する。