フィランソロピーで感染症を撲滅する、ビル・ゲイツ氏が都内で対話イベント

フィランソロピーについて東京・中央区の浜離宮朝日ホールで語るビル・ゲイツ氏=河合正貴撮影

「フィランソロピーとチャリティは違う。フィランソロピーとは、(災害ではなく)マラリアやエイズなど『日々の社会問題』の解決を目指す組織に投資し、たとえば薬が行き渡る仕組みを作ることだ」

これは、米マイクロソフトの創業者で、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の共同創業者・共同議長であるビル・ゲイツ氏が12月16日、浜離宮朝日ホールで朝日新聞社が主催した対話型イベント「Philanthropy×Innovation―ビル・ゲイツと語る日本、未来」で語ったものだ。会場には500人が詰めかけた。

■リスクをとりインパクトを与える

ゲイツ氏は2000年、ゲイツ財団を設立した。アフリカを舞台にマラリア、エイズ、ポリオといった感染病の撲滅に集中的に取り組み、成果を挙げてきた。国連児童基金(UNICEF)のデータによると、マラリアにかかって命を落とす5歳未満児の数は2000年から2013年までに40%減、エイズでも50%減った。ポリオは2015年中にアフリカで根絶できる見通しとなっている。

感染症対策を重視する理由についてゲイツ氏は「感染症の問題を抱えるのは途上国だ。途上国には、解決に必要な能力や資金が十分にない」と説明する。

ゲイツ氏が例に挙げたのが、マラリアの薬の開発だ。途上国には開発能力がない。かといって先進国ではマラリアはほぼ発生しない。製薬会社からすれば、莫大な資金を投じて新薬を開発するには、売り先を考えるとリスクがある。そこでゲイツ財団が新薬の開発資金を出す。「できた薬は安い価格で提供してもらい、貧しい国の人に行き渡るようにし、マラリアを撲滅していく」(ゲイツ氏)。リスクをとるのがフィランソロピーといえる。

ゲイツ氏によると、こういったフィランソロピーのやり方はビジネスに似ている。イノベーション技術を持つ人にお金を集め、社会にインパクトを与えていく。違いは非営利目的であることだ。

ゲイツ財団はこれまで、非営利団体はもちろん、企業に対しても新薬の開発に助成金を出してきた。評価基準のひとつは、1000ドル(約12万2000円)でどれぐらいの命を救えるか、だという。

楽天の三木谷浩史会長兼社長と対談するビル・ゲイツ氏=河合正貴撮影

ビル・ゲイツ氏はイベントで楽天の三木谷浩史会長兼社長とも対談した=河合正貴撮影

■「貧困撲滅=人口爆発」ではない

ゲイツ氏がフィランソロピーに目覚めたきっかけはアフリカへの訪問だった。「良い医療、十分な食料、きれいな水がすべての人に行き渡っていないことを実感した」。ゲイツ財団を立ち上げてからは「すべての命に平等の価値はある」という理念のもと、「ハンセン病やマラリア、結核、エイズ、ポリオといった感染症のすべてを、生きているうちに撲滅したい」と意気込む。

フィランソロピーをやるうえで難しいのは、何に取り組めばいいのかを見つけることだ。ゲイツ氏は「重要なのは『当事者意識』をもつこと。そのためには、価値観ができあがる前の若いときに、世界の不平等について考えるといい」とアドバイスを送る。

見つけ方はさまざまだ。貧しい国に行き、自ら体験するのが最も効果的、とゲイツ氏。米国には、ボランティアとして途上国で活動する「平和部隊(ピースコープ)」(青年海外協力隊のモデルとなった)という制度がある。実際に行けなくても、インターネットを使えば現場を見ることは可能だ。

ゲイツ氏に対して会場からは「フィランソロピーの活動で貧困や病気がなくなれば、人口爆発が起こるのでは」との質問があった。

ゲイツ氏は「生まれる子どもの数はすでに減少に転じている。人口が増えているのは、医療体制が整い、寿命が延びているからだ」と指摘。2050年には世界人口が95億人を突破すると予測されるなか「100億人までなら、食料や医療は対応できる。医療が整えば、5歳未満児死亡率も下がり、出生率も低下するだろう」と予想した。