変わりゆくミャンマーで民族文化は生き残れるか? 「モン語は死んでほしくない」と女性が涙

モン族のロンジーを着るニェンさん

「言葉は、人が必要としなければ、簡単に滅びてしまう」。目にためていた涙をこぼしながらこう語るのは、モン族の女性ミー・ニェン・ニェン・ウィントさんだ。30歳。

彼女は11年以上、ミャンマー・ヤンゴンにある「ミャンマー民族村」のモン族のエリアで働いている。仕事は主に、モン族特有のロンジーの販売と民族文化の解説だ。民族村は、ミャンマーの8つの主要民族の文化や伝統を紹介する公園だ。

急速な経済発展で注目を集めるミャンマー最大の都市ヤンゴン。この街は、実は9~10世紀ごろ、モン族が支配していた。ところが今では人口の3分の2をビルマ族が占める。ビルマ族を中心とするヤンゴンが経済的に飛躍し始めたのとは裏腹に、モン族の文化は衰退しつつあるという。その象徴がモン語だ。

ニェンさんは「モン語は、今は話す人が減った。モン族でも、ビルマ語や英語のほうが大切だと考える人が増えてきた」。子どもたちもその親も、ほかの言語のほうが必要だと考える傾向は強い。

モン語を消滅させまいと、ニェンさんはモン族の人と話すときはモン語を使用したり、モン語を学ぶサマースクールを開いたりしている。だがそういった学校に子どもを通わせようとしない親も少なくないという。

その一方で、言語とは違い、衰退しない文化もある。ミャンマーの民族衣装ロンジー(腰に巻く布)だ。ロンジーは民族ごとに柄や色の特徴をもつが、モン族は今もロンジーを着続けている。

モン族のロンジーの特徴は、女性用は赤、男性用は赤と白のチェック柄というデザインだ。ニェンさんによると、はじめはモン族を象徴する色や模様はなかった。さまざまな種類のロンジーがあったという。

モン族の女性用ロンジー

モン族の女性用ロンジー

しかしモン族の王朝・ペグー朝(13~18世紀)が倒れ、ミャンマーで民族紛争などの厳しい時代が続いていたとき、モン族は自分たちの存在や伝統を示すチャンスだとして民族のカラーを赤に決めた。女性用ロンジーの一番下の無地の生地部分は、かつてのモン族女王のひらひらとした長い丈を表している。男性用ロンジーのチェック柄はモン地域の特徴である田んぼを表す。赤は信仰を、白は誠実さを象徴するそうだ。

英語を学習するブームが巻き起こり、モン語をはじめ少数民族の言葉への関心が薄れていく多民族国家ミャンマー。衰退していく文化も当然ある。だがミャンマーの象徴でもあるロンジーによって、エスニック・アイデンティティ(民族意識)は保たれ続けるかもしれない。2月24日はミャンマー政府公認の「モン族の日」だ。

モン族の男性用ロンジー。格子柄は田んぼを表す

モン族の男性用ロンジー。格子柄は田んぼを表す