「トランポリンで笑顔を作りたい」、45キロの器具を担いで13カ国を旅した石原舞さん

プノンペン近郊の村でトランポリンを楽しむ子どもたち

「トランポリンを通して世界中に笑顔を作りたい。トランポリンはあらゆる人を幸せにする力がある」。これは、カンボジアの首都プノンペンでトランポリンを中心とする教育事業を展開する「FLY HIGH」の創設者、石原舞さんの言葉だ。石原さんは2014年6~8月、日本での仕事を3カ月休んで13カ国を旅した。重さ約45キログラム、直径約2メートルのトランポリンを担ぎ、各地でトランポリン教室を開いたという。

きっかけとなったのは、日本の職場での体験だ。石原さんは大学卒業後、スポーツインストラクターとして活動。子どもたちにトランポリンを教えていた。

「私は一時期、悩み事でうつ寸前の状態に追い込まれた。その時自分を救ってくれたのは、トランポリンではしゃぐ子どもたちだった」と石原さん。この経験から「子どもの笑顔には人を幸せにする力がある」と考え、トランポリンとともに世界を旅することを決めた。

旅の中でトランポリンの力を強く感じる出来事があった。タイ北部に暮らすカレン族の村でトランポリン体験をした時のことだ。カレン族は通称“首長族”と呼ばれ、村には多くの観光客が訪れる。

「不自然な作り笑いを浮かべているように私には見えた。全く笑わない子もいた」(石原さん)。しかしトランポリンに乗ると様子は一転。「暗い表情をした子どもがトランポリンに乗った途端、眼を輝かせて遊び始めた」と当時の喜びをかみしめる。周りで見ていたカレン族の大人たちも感動し、母親は涙を流した。石原さんは「笑顔は周りの人も笑顔にすることを強く実感した」と話す。

石原さんは旅から帰国後、「活動により専念したい」とスポーツインストラクターの仕事を辞めた。15年6月からプノンペンに移住し、スポーツ教室を始めた。プノンペン市内で現在、トランポリンを中心にヨガやダンス、新体操、鉄棒の5種類、各1時間のクラスを週に12クラス受け持つ。授業料は1時間8~10ドル(900~1100円)だ。

カンボジアの教育事情について石原さんは「経済発展とともに、子どもに習い事をさせたい家庭が増えてきた。ほとんどの学校は体育がないので、自分の得意なスポーツでカンボジア人の力になりたい」と意気込む。農村部でも月に数回、貧困層を対象にトランポリン体験教室を開いている。

石原さんは16年3月、13カ国でトランポリンをした時の経験をまとめた著書「FLY HIGH トランポリンを担いで歩いた世界13カ国の旅」を出版した。「自分の経験を伝えることで、(読者に)一歩踏み出す勇気を届けたい」と語る。