フィリピン・セブでタイ料理屋が増えてきた。その数は10軒ほど。セブの平均気温30度以上にアツい、辛いタイ料理。実は、タイ帰りのフィリピン人がそのトレンドを作り出している。
タイ観光省によると、タイを訪問するフィリピン人観光客は、1997年の7万9000人から、2015年は31万人へ約4倍に増加した。なぜフィリピン人はタイを選ぶのか。「気軽に行ける」「露店の安さ」「観光名所」というタイの魅力がそこには隠されていた。
フィリピンからタイまでの航空券は安く手に入る。セブで人気のタイ料理店「マエ・クルア」で料理を食べるミッチェル・カールさんはバンコクへの旅行経験がある。「セブ~バンコクの往復チケットがセブパシフィックで3000ペソ(約7200円)と安かった」と言う。他のアジア諸国は、例えばエアアジアでセブ~ソウルの場合、1万1440ペソ(約2万7000円)かかる。フィリピン人にとってタイは気軽に足を運びやすい場所だ。
タイは露店の商品も安い。セブのビジネス街「ITパーク」でパッタイ(タイ風焼きそば)を食べていたチェリー・アン・ロアブルさんは「タイでは服やご飯を、フィリピンよりも安く買えた」と嬉しそうな様子で話す。一般的な店の商品こそタイとフィリピンの価格差はさほどない。けれども、タイには露店が多く、ローカルフードやお土産は安く手にいれることができる。
タイならではの観光名所もフィリピン人を魅了する。東南アジア諸国連合(ASEAN)唯一のカトリック国であるフィリピンの人たちにとってブッダの寝像や寺院は興味深いようだ。またバンコクのランドマークである「ワットプラケオ(王宮)」も屈指の観光名所だ。ロアブルさんは「王宮が印象に残っている。タイのディズニーランドみたいだった」と楽しげに話す。
タイ旅行帰りのフィリピン人がけん引する形で、セブではタイ料理が密かなブームとなっている。
ITパークでロアブルさんと一緒にパッタイを食べていたジョーイ・マリエ・ロモンゴさんは「ロアブルに教えてもらって、タイ料理が好きになった」と言う。マエ・クルアでは、正午を少し過ぎたところから客の数が一気に増え、20人の席がいっぱいになる。料理の値段は1品約120ペソ(約300円)だ。
マエ・クルアに昼食をとりに来たビジネスパーソンのノア・ミッチェルさんは「タイに行って初めてタイ料理を食べた。それをきっかけに食べるようになった。タイ料理の中には辛いものも甘いものもあるから、好きな料理を食べることができる」と嬉しそうだ。バンコク大学の調査によると、旅行者の63.3%が料理を目当てにタイを訪れるという。ミッチェルさんも「2週間に1回はマエ・クルアに来る」と、すっかりタイ料理の虜になっている。