ミャンマーのヤンゴン市サウスオカラッパ地区にあるマドラサ(イスラム学校)で、生徒18人と教師2人に「好きな国は?」と聞いたところ、全員が「サウジアラビア」と声をそろえた。
「ミャンマーは好きだけれど、サウジアラビアはもっと好き。できるならサウジに渡って、そこで一生を終えたい」「サウジアラビアはイスラム教育が進んでいる。ぼくもサウジで学びたい」「お金さえあったら行くのになあ。サウジに行くには600万チャット(60万円)もかかるんだよ」と彼らは語る。
ミャンマーでは仏教徒が9割を占め、少数派のイスラム教徒(ムスリム)は差別や迫害を受けているとされる。しかし、このマドラサの生徒のうち42人に質問すると、全員が「仏教徒とも一緒に遊ぶ」と答えた。彼らの多くはミャンマーの公立学校にも通っており、そこで仏教徒と友だちになる。「差別を受けていると感じたことは一度もない」と言う。
公立学校を途中でやめてマドラサのみに通う学生もいる。だが、仏教徒の友人との付き合いは続くという。「独立記念日(1月4日)にあるスポーツフェスティバルでは、昔の友だちとサッカーできるのでうれしい!」
かつてマドラサに通っていた女子高生(15)は現在、教師になるために勉強中だ。「ミャンマーには貧しくて学校に行けず、働いている子どもがたくさんいる。私はそういう子に勉強を教えたい。ムスリムだけれど、子どもたちがどの宗教を信仰しようと気にしない」と語る。
また、マドラサの生徒らはチンロンというボール遊びやビー玉遊びが好きだ。いずれもミャンマー伝統のもので、両親から教わった。また、豚肉の入っていないミャンマー料理も好んで食べる。
マドラサで学ぶ子どもたちは、ムスリムであっても、生まれ育ったミャンマーに慣れ親しんでいる。だが「サウジのほうが好き」と言い切る現実。自分の国に決して不満があるわけではないけれど、ムスリムとしてのアイデンティティのほうが強いといえるかもしれない。
サウジアラビアは果たして、ミャンマーのムスリムが考えるような「理想的な場所」なのだろうか。2015年1月、サウジアラビアでは幼い継娘を殺害した罪に問われたミャンマー人女性が、無実を訴えたにもかかわらず路上で斬首刑に処せられた。