真新しい大画面のスマートフォンを手にまんざらでもない表情の彼女に同情するべきなのかわからなかった。生ぬるいミャンマービールを一気に飲み干すと、トウトウッ(自称21歳、ビルマ族)は私の肩に寄りかかった。胸に深い切り込みがある紫色のドレスは勝負服だという。一目で夜の女性とわかる身なりだ。
21歳が一家の大黒柱
ミャンマーの最大都市ヤンゴンの繁華街にある有名なナイトクラブ。中央のダンスフロアを囲むようにソファが並び、客たちは思い思いの女性を隣に座らせる。裕福なミャンマー人の客もいるが、大半は欧米やアジアからの外国人観光客だ。
トウトウッは外国人を主に相手にするフリーのセックスワーカー(売春婦)らしかった。英語は片言しか話せないが、入店するやいなや「私を指名して!」とばかりに手を引っ張るので少し付き合うことにしたのだ。
ビールを一杯奢って話を聞く。家族の収入が少ないため、トウトウッは必要な時にこのクラブで外国人客に体を売り、生活費に充てているという。私はビルマ語の会話帳を取り出し「男」「お金」と質問してみた。すると即座になんと日本語で「8万チャット(8000円)」と返ってきた。多少割高に言っているはずだが、8万チャットといえばミャンマーの庶民の平均月収(7万~10万チャット=7000~1万円)とほぼ同額だ。
「親はクラブで働いていることを知っているのか」と私がつたないビルマ語で尋ねると、驚いたことに答えは「イエス」。「家族は働いている」とトウトウッは言うが、生活費のほとんどを彼女の稼ぎに依存していることは簡単に想像がつく。ミャンマーに限らず、途上国では身内に高収入の者がいるとその一人の稼ぎに頼るのが普通。なにせ一晩で1カ月分の収入を稼いでくれるのだ。
貧しいがゆえに娘の売春で生計を立てる家庭は、ここヤンゴンでも少なくないに違いない。「敬虔な仏教国」という私の中のミャンマーのイメージが、音を立てて崩れた瞬間だった。