「マラリアは、あなたの側にいる」。4月25日の世界マラリアデーにあわせ、24日昼から26日昼まで、東京メトロの地下鉄(銀座線と丸ノ内線を除く)の車内に、こんなメッセージを掲げた中吊り広告が登場する。途上国ではいまだに、マラリアを患い、2分に1人のこどもが命を落としている。
マラリア問題を喚起する中吊り広告キャンペーンは初めて。仕掛け人である特定NPO法人Malaria No More Japanの長島美紀理事は「地下鉄の中吊り広告にはおよそ100万円かかる。だがマラリアがいかに途上国の人にとって恐ろしいものかといった認知度を日本国内でも高めていきたい」と語る。
同団体は2012年に設立されてから(法人格の取得は13年)、住友化学が開発した殺虫剤を練りこんだ蚊帳「オリセットネット」を定期的にアフリカへ届けてきた。アジアではインドネシアで、ロート製薬の「かるがも基金」の助成金を使い、マラリア感染者が多いインドネシア東ヌサトゥンガラ州シッカ県に、検査用の顕微鏡を寄贈している。同県では顕微鏡技師のエラー率が40~60%と高く、マラリアの誤診が多い。検査体制の強化が目的だ。
これまでの活動について長島理事は「直接的な支援も大切。しかしこれからはアドボカシーや現地の声を生かした支援にシフトしていきたい。マラリア対策には早期発見・治療システムづくりが欠かせない。そのためにはより多くの人に、マラリア撲滅に取り組むべき、と理解してもらう必要がある。そうした理解が根本的な解決につながるのでは」と話す。
Malaria No More Japanは7月から、シッカ県にある10の村で、地元のNGO「YASPEN」と共同で、スマートフォンのアプリ「簡易版マラリア専用電子カルテ」を試験的に導入する。プロジェクトの期間は1年。年間予算は、アプリの開発費用を除いて200万円程度。サポート企業からの支援の一部を活用する。
ティモール島の西部に位置する東ヌサトゥンガラ州は、インドネシア全体のマラリア患者数の23%を占める同国最大のマラリア感染地帯だ。シッカ県の人口は同州の6%だが、マラリア患者の数はインドネシア全体の10%に上る。
マラリアアプリの開発を担当するのは東京のIT企業。登録フォーム形式の既存アプリを改良することでコストダウンを図る。開発したアプリは、現地のヘルスワーカーがスマートフォンにダウンロードして使う。コミュニティを巡回する際に、マラリアの感染が疑われる住民を見つけ、氏名や症状、場所などを記録していく。データ通信料はMalaria No More Japanが負担する。
「マラリア患者のデータを一元化させるアプリは世界で初めて。データをどう活用していくかは検討中。アプリは当面はインドネシア語にするが、いずれは他の言語にも対応させ、別の国・地域にも普及させていきたい」(長島理事)
Malaria No More Japanはこのほか、アフリカの現地NGOからマラリアに特化したプロジェクトを公募し、約100万円の助成金を出す「マラリアファンド(仮称)」を7月にも設立する計画。Malaria No More Japan自身が蚊帳を配るといった支援から、地元のNGOを支援するやり方に変えていきたい考えだ。
世界保健機関(WHO)によると、15年にマラリアで死亡した人は全世界で推定43万8000人。この9割がアフリカに集中している。15年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2030年までにマラリアの根絶を目指すと掲げる。