紛争が続くコンゴ民主共和国(コンゴ民=旧ザイール)東部で性暴力被害者を治療しているコンゴ人医師を描いた映画「女を修理する男」(2015年、ベルギー製作)の上映会が6月3日、東京・池袋の立教大学で行われた。上映会を主催した米川正子立教大学准教授は「コンゴ民の東部は“世界のレイプの中心地”と呼ばれるほど性暴力が横行している。その原因は我々が利用するスマートフォンと密接に結びついている」と訴えた。
■2カ月の赤ちゃんまでレイプ
映画が明らかにするのは、コンゴ民東部の深刻な性暴力の実態だ。武装勢力に襲われたある女性は「性器にナイフを刺され、気を失った。意識が戻った時は手術中で、一時は膣と肛門がつながっていた」と告白する。また、別の既婚女性は「武装勢力が突然、家に押し入り、夫や子どもたちの前で私を犯した。子どもは脅され、私は深い傷を負った」と怒りを露にする。
国連人口基金(UNFPA)によると、コンゴ民では1996年に紛争が勃発して以降、推定20万人以上の女性が性暴力の被害を受けたという。これは毎月1100人、1日36人の女性が被害にあっていることを意味する。コンゴ民政府は腐敗しており、同国東部では司法が機能していないのが実情。米川氏は「国軍や警察も性暴力に加担している」と口にする。
■住民を退かすためにレイプ
米川氏によると、武装勢力が性暴力をふるう目的のひとつは鉱物資源を確保することだ。コンゴ民東部は豊富な鉱物資源に恵まれている。特に「紛争鉱物」と呼ばれる金、銀、タングステン、タンタルが豊富に採れる。タンタルはスマートフォンやゲーム機のコンデンサー(蓄電器)に使われる。コンゴ民には少なくとも世界のタンタルの6割が埋まっているとされる。
「武装勢力は、紛争鉱物を違法に採掘する多国籍企業から賄賂を受け取り、活動資金にしている」。こう暴露するのは、三井物産戦略研究所の白戸圭一研究員だ。白戸氏によると、複数の中国企業がコンゴ民東部で紛争鉱物の取引にかかわっていることが国連安保理の調査で分かったという。
紛争鉱物は、市民の居住区に埋まっていることも少なくない。「武装勢力は紛争鉱物を独占したいがために、住民の強制移動を目的のひとつとして性暴力をふるう。性暴力はコミュニティを弱体化させ、武装勢力の支配を容易にする」と米川氏は説明する。
■紛争鉱物かどうか分からない
紛争鉱物を規制する動きは出ている。だが実効力が薄いのが現状だ。米国議会が2010年に成立させた金融規制改革法(ドッド・フランク法)の1502条は、米国の株式市場に上場している企業に対し、自社製品にコンゴ民の紛争鉱物が使用されていないかどうかを調査・報告することを義務付けている。
紛争鉱物の使用が発覚すれば自社イメージが下がりかねないことから、規制に向けた効果が期待された。これについて白戸氏は「2014年時点で調査義務を負わされた1321社のうち、自社製品に紛争鉱物が含まれていないと報告した企業は24%にとどまった。反対に自社製品に紛争鉱物が含まれていたと報告した企業はわずか4%だ。7割の企業は自社に紛争鉱物が含まれているかどうか、突き止められなかった」と問題点を指摘する。
白戸氏はまた、「鉱物資源のサプライチェーンは現在グローバル化している。資源のルーツを突き止めることは困難だ。ドッド・フランク法は十分に機能していない。紛争鉱物の規制は難しい」と語る。
コンゴ民東部では1996年以降、豊富な鉱物資源を原因に紛争が長期化している。国連は、2万人規模と世界最大の平和維持活動(MONUSCO)を展開しているが、事態は泥沼化するばかりだ。