世界初のマラリアワクチン誕生か?! 阪大がブルキナファソで臨床

ウガンダ中北部のアパッチ県にある病院で重症マラリアの子どもを抱える母親たち。死亡者の大半が5歳以下の子ども(1998年ごろ)

世界初のマラリアワクチンが5年後にも日本から誕生するかもしれない。ワクチンの名は「BK-SE36」。BK-SE36の開発者である大阪大学難治感染症対策研究センターの堀井俊宏教授は「新ワクチンのマラリア予防効果は72%。承認に向け、本格的に動いている」と自信をのぞかせる。阪大は2015年から、西アフリカのブルキナファソで、このワクチンの臨床試験をスタートさせた。

マラリアを予防するには現在、錠剤しかなく、ワクチンは存在しない。薬剤耐性をもつマラリア原虫も増えるなか、効果的な予防法がないのがとりわけアフリカで暮らす人にとって脅威となっている。BK-SE36の臨床試験の責任医師を務めるブルキナファソ国立マラリア研究センターのシリマ・エグゼクティブディレクターも「BK-SE36への期待は大きい」と語る。

臨床試験の期間は15年6月~17年2月の1年9カ月。試験の対象となるのは、マラリア感染で最も重症化しやすい5歳以下の幼児およそ100人。BK-SE36は、マラリアの中でも致死率が高い熱帯熱マラリアに有効とされる。「熱帯熱マラリアは、5歳以下の幼児がかかると4人に1人が死亡する危険な病気だ」(堀井教授)

BK-SE36は3~4週間の間隔をあけて2回にわたって接種する。マラリアの予防効果は1年間続くという。「ワクチン効果を高めるCpG-ODN(K3)という成分を添加すれば、有効期間を2~3年に延ばせる可能性もある」と堀井教授は話す。

マラリアワクチンの研究は欧米を中心に進んでいる。だがこれまでのところ十分な効果が得られた報告はない。英国の医学雑誌ランセットによれば、12年に英製薬会社グラクソ・スミスクラインが開発した「RTS,S/AS01A」も予防効果は31.3%。米国食品医薬品局(FDA)への承認申請はまだで、WHOも推奨していない。

世界保健機関(WHO)によると、全世界で15年に約2億1400万人がマラリアに感染。43万8000人が命を落とした。この7割(30万6000人)が5歳未満児だ。

「マラリアワクチンの承認に課されるプロセスは厳しい。BK-SE36も、2年近くかかる臨床試験をあと1回は実施する必要がある。その際のスケールは7000人程度。それを終える5年後に、まずはFDAの承認を得ることを目指したい」(堀井教授)

持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までにマラリアを世界から撲滅するという目標を掲げている。堀井教授は「72%の予防効果をもつBK-SE36を世界中に届けることができれば、目標達成に大きく貢献できる」と意義を強調する。

BK-SE36の開発費は現在までに約15億円かかっているという。「承認までには合計で20億~30億円かかりそうだ。それでも民間企業の新薬開発に比べ格段に安い」と堀井教授。日本製薬工業協会と医薬産業政策研究所による製薬企業55社への調査では、1つの新薬の開発にかかる費用は484億円(2009年調べ)。臨床試験から承認に至る成功確率は18%と低い。

大阪大学微生物病研究所難治感染症対策研究センターが開発したBK-SE36マラリアワクチン治験製剤。重症化しやすい幼児への効果が高いのが特徴だ

大阪大学微生物病研究所難治感染症対策研究センターが開発したBK-SE36マラリアワクチン治験製剤。重症化しやすい幼児への効果が高いのが特徴だ