日本のNGO「ラオス山の子ども文庫基金」がモン族の村に図書館をオープンして11年、本離れが進んでも絵本で豊かな心を!

モンの伝統工芸である刺繍で作ったモン族の民話の絵本。「ラオス山の子ども文庫基金」の安井清子代表は6月4日、都内で講演した

「図書館を作ったのは識字教育のためではない。(ラオスの)モン族の子どもたちにお話を通していろんな世界に触れてほしいから」。これは、国際協力NGO「ラオス山の子ども文庫基金」の安井清子代表の言葉だ。安井さんは30年にわたって、ラオス・モン族の村で「こども図書館」の建設・運営を手がけてきた。

安井さんがモン族と初めて出会ったのは1985年。メコン川の西側(タイ側)にあるバンビナイ難民キャンプを訪問したときだ。ここにはラオスのモン族が暮らしている。安井さんはおよそ200冊の日本語の絵本を持っていった。

安井さんは当時、モン語をまったく話せなかった。絵本の絵を指して、子どもたちに「何?」と聞きながら、「子馬」「犬」などのモン語を少しずつ覚えていった。「単語だけでのつたない読み聞かせでも、子どもたちは絵本に身を乗り出した。お話を聞くことは、子どもにとって、お話の中身を体験するくらいインパクトがあることを知った」と安井さんは振り返る。

モン族は文字をもたない。かといってモン族の子どもたちは公用語のラオス語も読めない。このため本を読む習慣はなかった。「けれどもお話の世界に触れさせてあげたい」(安井さん)。そんな思いから、モン族の子どもたちのための図書館をいつか建てようと決めた。

図書館の建設がスタートしたのは2004年。「ラオス山の子ども基金」を立ち上げた直後だ。場所は、首都ビエンチャンから陸路で10時間のベトナムとの国境近くにある、モン族の村ゲオバドゥになった。

図書館という箱だけ作っても仕方がない。読書をしない村人は図書館が何かを知らないからだ。そこで安井さんは、その村にある石や木を使って、村人と一緒に図書館を建てることにした。共同作業することで図書館に愛着をもってもらうのが狙いだ。また、村人に対しては「幼いころから絵本の世界に触れると、想像力と思慮が豊かな人に育つ」と伝えていった。

1年以上をかけて、4.5メートル四方の小さな図書館が完成した。この図書館では、絵本の読み聞かせを子どもたちにする。ゲオバドゥ村出身のモン族のスタッフが、ラオス語で書かれた絵本をその場でモン語に訳す。図書館はいつも子どもたちでいっぱいだった。

安井さんはこのほか、モン族に伝わる口伝民話を残すために、文字に書き起こす活動も続けてきた。モン語に文字はないが、最近のモン族の若者は発音記号としてアルファベットを使う。

村の大人が夜、朗々と語る民話をカセットテープで録音し、文字を起こす。モン族の伝統工芸である刺しゅうを使い、布製の絵本を作成した。「絵本作りでも、図書館建設でも、モンの人たちがもつ技術や能力を注ぎ込ませることが重要。存在価値のわからなかったものにも理解と愛着が生まれるから」と安井さんは言う。

初めてモン族と出会って30年あまり。今ではゲオバドゥ村にテレビもあり、子どもたちの本離れが進む。「時代の流れは止められない。逆行もできない。でも幼いころから本に触れて、心の豊かさを培ってほしい」。安井さんは言葉に力を込めた。