世界中のムスリム(イスラム教徒)が日中断食する1カ月「ラマダン」(イスラム歴で9月)が6月6日に始まった。ラマダンといえば、ムスリムの97%が住むアジア、中東、アフリカといった地域の“行事”といったイメージが強いが、欧州や北米、はたまた日本でラマダンを迎えるムスリムも多い。中東・北アフリカ(MENA)から欧米へ渡る難民が増えているここ数年は、なおさらかもしれない。
大変なのは、欧州や北米では6月の日照時間が長いこと。これは、1日の断食時間が長いことを意味する。北欧では最長で22時間にのぼる地域も。対照的に、現在冬のオーストラリアやニュージーランドでは最短11時間で済む。日本だと、沖縄約15時間半、東京約16時間半、北海道約17時間半と、北に行くほど辛くなる。
私が暮らす米国ミネソタ州(米中西部の北にあり、カナダと国境を接する)の場合、日中の断食時間は17時間半だ。州都セントポールと隣のミネアポリスには、米国最大のソマリア人コミュニティがある。人口は推定4万6300人(ミネソタ州全体)で、ミネソタ州の人口の約1%を占める。ソマリアはイスラム教が国教。国民の大半がムスリムだ。
セントポールへ20年前にやって来たソマリア出身のアマルさん(仮名)は、ラマダン中は早朝3時に起きて、夜明けの断食が始まる前の食事(スフール)をとる。その後、日が沈む夜9時までは何も口にしない。断食時間は1日の7割にも相当する。「長時間の断食は正直辛い。ソマリアのラマダンは今だと14時間で済むから」
ラマダンの期間は、日が沈むとモスクへ集まり、断食明けの軽食をともにするのがムスリムの日課だ。ところがミネソタは日没が夜9時と遅いため、翌朝6時からスーパーマーケットで働くアマルさんはモスクへ行けないと嘆く。
6年前にエジプトからセントポールに移住した歯科医のディナさんは、長時間の断食はそこまで辛くないと余裕だ。理由を尋ねると、「私は1年中、毎週月曜日と木曜日に断食するようにしているから。断食は慣れている。それに、ミネソタよりもエジプトのほうがずっと暑いから、ミネソタのラマダンは楽」。
エジプトでは今回の場合、1日の断食は16時間ほど。ディナさんは「17時間半も16時間もあまり変わらない」と言う。だが娘のロージーちゃん(9歳)からすれば「2時間は大きな違い」らしい。夜9時までにはロージーちゃんは眠りにつくからだ。娘の世話もあってディナさんは「毎晩モスクに行けない」と残念そうだ。
ミネソタの長い断食時間も、14年後には今より6時間半も短くなる。なぜならイスラム歴は1年が354日なので、ラマダンの開始日は毎年11日ずつ早まるからだ。2030年にはミネソタのラマダンは真冬の1月に始まり、断食時間は約11時間で済む計算だ。その代りオーストラリアやニュージーランド、アルゼンチンなどでは約17時間と長くなる。
時をさかのぼればミネソタのラマダンは冬だった。アマルさんは「私がミネソタに来た1996年は、ラマダンが冬だった。とっても楽だった」と思い起こす。彼女が冬のラマダンを経験できるのは14年先だ。