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「環境」は世界的にブームだ。程度や質の差こそあれ、それは途上国の田舎でも同じ。人口わずか3000人のマリパ(ベネズエラ南東部の村)でも毎月のように、環境絡みのイベントやワークショップがある。こう聞くと「すごい!」と思われるかもしれない。だがそこには落とし穴があった。
“何のため”を考えないで樹木の種を拾う有志たち
「なんで木の種を集めるのか、知ってる?」
マリパで、ベネズエラ環境省(以下、環境省)主催の「いろんな樹木の種を拾いに行くイベント」に参加したとき、地元の高校生マリア・リバスさん(15歳)にこう質問してみた。
「当たり前じゃん。苗木を作るためだよ」(マリアさん)
「そりゃそうだろうけどさ。苗木をどうするの?」(私)
「う~ん、植えるんじゃん」(マリアさん)
「それじゃ、なんで植えるの?」(私)
「えっ。う~ん、たぶん、森が減っているんじゃん」(マリアさん)
「じゃなんで森が減っているのか知っている?」(私)
「う~ん、まあ、木が減っているから森が減っているんじゃん。だから植林する必要があるんじゃん」(マリアさん)
「あはは。じゃ、森が減ると、なんでダメなのか知っている?」(私)
「う~ん、え~と。あっ、そうだ。オゾン層の破壊でしょ」(マリアさん)
「えっ、なんで?」(私)
これは毎度の会話。
ベネズエラは国策として植林を推し進めている。「ミッション・アルボル」と呼ばれるもので、失われた森林を少しでも取り戻そうと、樹木の種を集め、それをもとに環境省の敷地内で苗木を育て、どこか地点を決めて植えるのだ。といってもマリパ周辺では数件のプロジェクトしか立ち上がっていないので、効果はまだまだ。それでも種を集めるときには、高校生ら有志を募って、みんなで種を拾いに行く。
マリパでも環境はブーム。だから“しつこく”声をかければ、20人程度は来てくれる。だけどその大多数は、なぜ種を拾うのか、もっといえばなぜ森が失われつつあり、なぜ森が失われてはいけないのか、とまではなかなか思いを巡らせてくれない。
樹木の種を集める、という行為は大切だろう。なにより口だけでなく行動することが素晴らしい。けれども次のステップとして大事なのは、“森が与えてくれるもの”を感じること。何度参加しても“私、いいことやっているのよ”的な満足感を覚えるだけでは、環境教育をする者にとっては寂しい。
質問ゼロのワークショップ、でも主催者は満足顔
「カウラ川は、野生生物が多く生息する熱帯雨林の中を流れ、周りにはインディヘナ(先住民)が暮らし、ベネズエラで最も汚染されていない川のひとつ」――。これは旅行ガイドブック「ロンリープラネット・ベネズエラ版」の記述だ。
マリパはそのカウラ川に面している。ちなみにマリパの人のことをこっちのスペイン語で「カウレーニョ」(直接的な意味は「カウラの人」)とも呼ぶ。
カウラ川には数種類のカメが生息している。そのうちの1つが「テレカイ」(体長50~60センチメートルにもなる)。肉や卵が食料になることもあって、生息数はどんどん減っている。
テレカイの危機を救うべく「フンダシオン・ラ・サジェ」という団体が、マリパの外れでこのカメを人工孵化させ、1歳半ごろになったものをカウラ川に放流する――という保護活動をしている。その団体が先ごろ、マリパの高校生を中心におよそ30人を招待し、テレカイのワークショップを開いた。
スタッフがパワーポイントを使って、カメの種類、テレカイの卵のありかの見つけ方、細かい飼育方法などをおよそ2時間にわたり説明する。その間、参加者は本物のテレカイを見せてもらえず(すぐそこでたくさん飼育しているのに!)、ただいすに座ってジーッと聞いていなければならない。資料を配布するでもなく、突然細かい話を講義されても、何一つ頭に残らないだろうに。
その場にいた、今年6月末に卒業する高校生のダジャナ・ダサさん(16歳)とネイラ・コレアさん(16歳)に話を振ってみた。
「なんでテレカイを保護するのかな?」(私)
「テレカイが減らないようにするためでしょ」(ダジャナさん)
「そりゃそうだけど。でもなんで減ったらいけないの?」(私)
「食べられなくなっちゃうし、次の世代の人が見られなくなっちゃう」(ネイラさん)
「そうだね。他には?」(私)
「‥‥」(2人)
「生態系とか、さ」(私)
「‥‥。そんな話、なかったよね」(2人)
「でもたぶんきっといろんな意味があるかもしれないよ。たとえばカメが減ると何かの植物が増えてしまうとか、水の汚染のバロメーターになるとか」(私)
ゆっくりと、しかし確実に森は失われ、川は汚れ、野生生物は減っている。生態系が壊れていくとどうなるのかと想像を膨らませ、一人ひとりがどうすればいいのかと思いを馳せることが大事。種を拾うイベントでもそうだが、いわゆる“振り返り”の時間がないので、子どもたちは“なぜ”と疑問を持たない。
帰ろうとした私を呼び止め、主催者は言った。「このワークショップ、良かっただろ」。
「でも誰一人、何一つ質問していなかったけど‥‥」と、私はボソッとつぶやいた。