小学校に張り出す壁新聞をみんなで作ったり、図書の時間を設けたりして、既存の学校を「子どもにやさしく」変貌させ、中退した児童5人を復学させた小学校がある。国連児童基金(UNICEF)がスーダンの東部3州で2014年3月~16年10月に進行中の「小中学校中退改善プロジェクト」だ。カッサラ州教育省によると、16年1月時点で、同州にある66校の中退率が5%から3.7%に低下。14年には平均約40人いた中退者数が、15年には約6割減の14人にまで減ったという。
このプロジェクトは、欧州連合(EU)が1200万ユーロ(約13億5300万円)の資金を得て、UNICEF、セーブ・ザ・チルドレン、フランスのコンサルタント会社SOFRECOがスーダンの教育省と一緒になって、カッサラ州、ガダーレフ州、ブルーナイル州、紅海州、南コルドファン州を対象に実施するプロジェクトの一部。UNICEFは東部3州(紅海州以外)にある200の小学校を対象に進めている。
プロジェクトの目的は、教育の質を上げ、UNICEFが掲げる、子どもにやさしい学校「チャイルドフレンドリースクール(CFS)」に変革し、中退者を減らすことだ。親や教師、地域の人、教育省や地方政府の職員など教育に携わる人たちを巻き込むのがポイント。活動の柱は、学校の改修などインフラ整備、教師の研修、学校の自己評価や学校改善計画の作成、モニタリングの実施、補助金の交付だ。
このプロジェクトを担当したのは、元UNICEFスーダン事務所教育担当官の大澤小枝さんだ。14年12月~16年3月、エリトリアとの国境に近いUNICEFスーダン(カッサラ)事務所に駐在した。
カッサラ州での成功の要因について大澤さんは「子どもたちが楽しいと思える教育の中身の充実と、学校関係者や保護者の学校改善計画策定への積極的参加が大きい」と打ち明ける。その一例としてフェダイーブ女子校の改革内容を挙げた。
フェダイーブ女子校は、カッサラ州の対象校の1つ。「補助金はたったの5万円だった」(大澤さん)。少ない予算をどう使うかは、学校のCFS委員会が自分たちで作った学校改善計画に基づいて優先順位を決めた。
児童が希望したバレーボールネットや本の購入に充てたという。買った本は「図書の時間」を設け、児童が読める機会を積極的に作った。校内に掲示できる壁新聞も制作した。内容は、グループ活動の発表や、それぞれの児童の民族文化の紹介、花の成長、コーランの清書などで、児童が自由に考えて発表できる。ほかにも、トイレに行った後に手洗いをする習慣を身に付けさせる取り組みや、児童が使いやすいよう水飲み場にコップを置く小さな改善も行った。
「フェダイーブ女子校は、限られた予算の中でも、児童が楽しめる環境を整えることができ、中退者5人が復学するなど、大きな成果につながった」と大澤さんは語る。女子児童のひとりは「友だちから学校が楽しくなったと聞いた。だから戻ってきた」と話してくれたという。
「フェダイーブ女子校をはじめ、楽しい学校づくりの取り組みが噂になり、対象ではない隣の学校が自主的に地域でお金を工面し、取り組んだ例もある」と大澤さんは言う。
スーダンの小中学校の未就学率は29.8%。都市と地方では差があり、カッサラ州では45.1%にも上る。今でも学校に行かない子ども(5~13歳)がスーダン全土で約300万人いるという。「家庭の困窮など金銭的理由だけでなく、女子トイレがなくて嫌、学校教育で使われるアラビア語がわからない、勉強しても意味がないと投げやりになったり、児童が抱える内面的な問題も中退の背景にある」と大澤さんは説明する。