ガチガチ社会主義が揺らぐキューバ、元朝日記者がみた「今」

講演会の様子。参加した国際機関や企業の担当者の関心は高かった(ラテンアメリカ協会提供)

キューバは確実に変化している――。米国との国交が回復したキューバの「今」を報告する講演会が都内で開かれ、フリージャーナリストの伊藤千尋氏が「絶対平等ではなく、庶民にお金が回っている」と語った。米国との定期便が再開され、外資企業誘致も進む一方で、キューバは社会主義を維持する。今後は資本主義理念との折り合いをどうつけるかが注目される。

■観光客増加、土産物は「ゲバラ推し」

講演会「米国と国交回復後のキューバ」は、ラテンアメリカ協会(東京・千代田)が主催し、約50人が参加した。この中で、伊藤氏(元朝日新聞記者でサンパウロ支局長など歴任)が2016年1月~2月に現地を訪問した際の現状などを報告した。

伊藤氏によると、すでにキューバを訪れる観光客が増えていて、現地経済は活気づいているという。キューバ国家統計局の調べでも16年1月単月の観光客は42万人と前年同月の37万人から約13%増えた。

繰り返しキューバを訪れてきた伊藤氏が特に変化を感じたのが、土産物店の品ぞろえだ。国技の野球ボールや記念のカレンダー、プレートにチェ・ゲバラの顔をプリントするなど付加価値をつけ販売している。「以前は小学校の工作のような民芸品しかなかったが、種類や質が向上し、ニューヨークの土産店のような品揃えになった」(伊藤氏)

街では、多くのレストランでバンドがキューバ音楽を披露、自主制作したCDを観光客にその場で販売して賑やかな雰囲気だという。

■イセエビ流通、田舎でも肥満

伊藤氏は「観光客が増えれば、庶民にもお金が回るようになる。すでにその兆しは出ている」と指摘した。実際、食料事情は改善され、以前は輸出用限定だったイセエビも市場に出回っている。貧しい人が多い地方でも恰幅のいい男性が目に付き、運動ジムの需要も増えてきた。

8月に米国との定期便が約半世紀ぶりに再開、1日最大110便まで増える。今後のさらなる観光客増加を見込んでシェラトンなどのホテルだけでなく、リゾート開発やアパレルなどの外資企業の進出も報道されている。

■2011年「絶対平等」崩壊、自分で稼ぐ!

実は、キューバ経済変化の大きな契機は16年の米国との国交回復より前の、11年にさかのぼる。同じ共産国だったソ連崩壊などによって経済危機が続いていたため、ラウル・カストロ国家評議会議長が「絶対平等の維持は無理」と宣言した。

元々キューバは1961年の社会主義宣言以降、労働者はすべて国家公務員で医者も清掃員も給料は同じ。食料や日用品も全て配給だった。国民が自ら稼ぐ方法は想像もできない状況だったが、11年以降は「配給所を閉鎖して、今後は労働者人口の3分の1を自営業者にする」と、資本主義の部分導入を進めた。

■社会主義は維持、国としては先行き不透明

資本主義の導入で、観光に携わる国民を中心に、生活が豊かになりつつあるようにみえる一方、キューバは「子ども、病人、老人など弱者への救済は続ける」と、今後も社会主義制度は維持する方針だ。

実際、外資参入の壁も残ったままだ。企業は現地労働者を直接採用できず、公社などを通さなければいけないなどの報道もある。また、国民の間にラウル氏の兄フィデル・カストロ氏に対して「もう表舞台から退いてもいい」という不満も少なくないという。

国交は回復したが、米国との問題は全て解決したわけではない。伊藤氏も「米国とキューバは経済封鎖の全面解除やグアンタナモ基地の返還問題など、互いに譲れない課題も残っている」と講演を締めくくった。