「ホッチキス型ミシン」を路上で売る小卒のミャンマー人、稼ぎは大卒の7.5倍!

人通りの多いヤンゴン中心部でホッチキス型ミシンを露店売りするキンマンウィンさん(右)。色は赤、青、緑、オレンジの4種類ある。左の男性は兄で、たまたま手伝いに来たという

ミャンマー・ヤンゴンの中心部を走るアノーヤター通りには、彫りの深い顔に顎ひげを生やし、ミャンマーの民族衣装ロンジーをはいて、ホッチキス型のミシンを売る男がいる。彼の名前はキンマンウィン(33)さん。インド系のミャンマームスリム(イスラム教徒)だ。

キンマンウィンさんは中学校を中退後、両親が営んでいた露店を引き継ぎ、現在は月90万チャット(約9万円)を稼ぐ。ミャンマーでは大学での若者の月収は12万チャット(約1万2000円)が相場といわれるなか、キンマンウィンさんの月収はその7.5倍。キンマンウィンさんは、妻(主婦)と3人の子どもをホッチキス型ミシンひとつで養っている。

中国製のこのホッチキス型ミシンは、紙をホッチキスで止めるのと同じように、布を挟むだけで手軽に裁縫ができる。女性客のひとりは「ミャンマーでは多くの人が持っている。私は月に2回くらい、枕を縫う時に使う」と言う。ホッチキス型ミシンはヤンゴン市内の中華街から仕入れる。

この商売を始めたきっかけは10年前だ。当時は傘を売っていたが、売れ行きが悪かったため中華街で見つけたホッチキス型ミシンを買い、路上で売り始めた。以来ずっと、キンマンウィンさんはダウンタウンの路上で売り続けている。

ホッチキス型ミシンの値段は1つ5000チャット(約500円)。1日約20個を売り、売り上げは10万チャット(約1万円)だ。経費を引くと1日の収入は約3万チャット(約3000円)になる。ミャンマーでは一世帯あたり1日1万チャット(約1000円)あれば生活できるといわれる。キンマンウィンさんはその3倍を稼いでいるため、家族を十分に養うことができる。

キンマンウィンさんの住まいは、ヤンゴン川の南側に広がる貧困地区だ。毎日バスで1時間かけ、橋を渡り、ホッチキス型ミシンを売る中心部に通う。路上販売に必要なものは商品とそれを乗せるワゴンだ。しかし、バスでヤンゴン中心部と自宅を移動するキンマンウィンさんは大きなワゴンをバスに持ち込むことはできない。そこで、露店を出す場所の向かいにある建物にワゴンと商品を預ける。保管費として月1万チャット(約1000円)払う。

「(露店ではない)自分の店を将来、出したいとは思わない。路上はテナント代はないけれど、建物に店を構えるとお金がかかるから。目標も特にない。もし新しいホッチキス型ミシンがあったら、それを売るだけ」。キンマンウィンさんはこう本音を語る。

ホッチキス型ミシン。ホッチキスのようにパンチンパチンしていくと、簡単に縫える優れものだ。中国製

ホッチキス型ミシン。ホッチキスのようにパンチンパチンしていくと、簡単に縫える優れものだ。中国製