難民を助ける会、“難民キャンプに入れない”シリア避難民を食料支援

パンと水で作ったお粥を分け合いながら食べるシリア避難民の子どもたち

難民を助ける会(AAR Japan)は10月22日、シリア避難民支援活動報告会を東京・品川の事務所で開催した。報告者の大西清人事務局次長は「公的な支援を得られないシリア避難民は苦しい生活を送っている」と悲惨な状況を来場者に強く訴えかけた。

AAR Japanは9月下旬から、大西事務局次長とプログラム・コーディネーターの川畑嘉文氏を、シリアとの国境に位置するトルコ・ハタイに派遣した。そこで暮らすシリア避難民と、シリア避難民を受け入れたトルコ人家族の合計685人(150世帯)に小麦粉やコメ、牛乳、毛布、洗剤、紙オムツなどの食料・生活必需品を配った。第1回の支援が終わったところで大西事務局次長は日本に一時帰国し、今回の報告会で、シリア避難民が抱える将来への不安について語った。

内戦の激化に伴いシリアは多くの難民を出している。国連によると、トルコ、レバノン、ヨルダン、イラクなどの周辺国へ脱出したシリア人の数は10月24日時点で約36万人。親せき宅やテントなどで暮らす「避難民」だけでも数万人はいるとみられる。

トルコの難民キャンプには学校や病院、パン屋、八百屋などがある。「床屋や公園、コインランドリーさえある難民キャンプもある。キャンプに住む難民は、トルコ政府による公的な支援を受けながら生活することができる」と大西事務局次長は説明する。

その一方で、難民キャンプに入るのが難しいという現実もある。大西事務局次長は「難民キャンプに入るには、公式な登録、つまりパスポートが必要だ。だが貧しい家庭の女性や子どもの多くはパスポートをもっていない」と話す。

また、レイプへの懸念や反政府勢力「自由シリア軍」への入隊を強制させられるといった不安から難民キャンプを敬遠するシリア人もいるという。

だが難民キャンプの外で暮らすのは、公的な援助を受けられないこともあって、想像以上に厳しい。最大の不安要素は「シリアの内戦が長期化すること」だと大西事務局次長は言う。

「難民キャンプの外で暮らすシリア人の女性は『孫たちにパンと水だけで作ったおかゆしか食べさせてやれなくなってしまって、これからどうやって暮らしていけばいいのか』と嘆いていた。貯蓄を切り崩しながら生活している彼らは、栄養失調が原因で体調を壊しても、病院へ行くお金も保険もない」

仕事の問題もある。多くのシリア避難民はトルコ語を話せない。言葉を理解できなければ、トルコで仕事を得るのは至難の業だ。収入がないと食べ物に困る日がいずれ訪れる。

心のダメージも大きい。「シリアの内戦が終焉しても、元の生活に戻ることは簡単ではないだろう。隣人や親せき同士が殺しあうのを目の当たりにしたシリア人は、心に深い傷を負ってしまった」と大西事務局次長は危惧する。

シリアの内戦は解決の糸口が見えない。AAR Japanは引き続き、シリア難民・避難民を支援していくという。

AAR Japanは、1970年代後半にインドシナ3国で難民問題が発生した際、「難民に冷たい日本人」という批判に対し、故・相馬雪香氏が日本人の善意を示そうと、1979年に発足させた。政治、思想、宗教に偏らない活動を基本理念に、アジア、アフリカ、中東など15カ国で、緊急支援や障害者支援、地雷・不発弾対策、感染症対策、啓発活動を展開している。(有松沙綾香)