2016年2月にサイクロン「ウィンストン」が上陸し、死者44人、家屋倒壊推定1万1500棟と大きな被害を出したフィジー。住宅支援に取り組む国際NGO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」のフィジー支部が、大型化するサイクロンに対抗し、強じんな家の建て方を住民に教えるプロジェクトをフィジー東部のコロ島で進めている。
■「寄棟屋根」が強い!
プロジェクトの名前は「ビルト・バック・セーファー・トレーニング」。プロジェクトの狙いについて、ハビタット・フィジー支部のコミュニケーションマネージャー、ドレアン・ナラヤンさんは「政府やNGOが家を建てるだけでは、サイクロンが襲来するたびに壊れてしまう。村人たちの手で災害に強い家を建て、維持できるようにする必要がある」と話す。
トレーニングは16年9月から始まった。ハビタットのスタッフをウィンストンの被害が大きかった地域に派遣。それぞれの村から約20人の代表者に集まってもらう。代表者らが学んだスキルは村に戻った後、他の村人にもシェアする。
3日間のトレーニングでは、災害に強い家を建てる基本技術を教える。内容は、強いジョイント方法や紐の縛り方、補強の仕方、屋根の付け方、被害を受けにくい立地など。ハビタットが配る冊子は絵や図がたくさん採り入れ、建築の専門知識がなくてもわかるようになっている。
従来の家の建て方と異なる点は、補強の木を打つ場所や屋根の形状だ。とりわけ、4方向に傾斜面をもつ構造の「寄棟屋根」をハビタットは勧めている。「寄棟のほうが、別の屋根の形と比べても建設コストや難易度に大差はないのに強度は増す」とフィジー支部のコミュニケーション部のチェセ・テモさんは説明する。
■貧しい=低い防災意識
ビルト・バック・セーファー・トレーニングをハビタットが立ち上げたのには、家を壊された多くの住民が、以前とほぼ同じ家を建てる状況があった。「被災地には、釘やロープなどの建設物資が政府から届く。だが住民の多くは強い家の建て方を知らない」とナラヤンさんは言う。
強度を気にしないで同じ家を住民が建てるのは、単にスキル不足だけではない。防災意識の低さもある。テモさんは「災害に強い家を建てるという意識そのものがまだ浸透していない」と指摘する。
だがフィジー人の防災意識はなぜ低いのか。「強い家を建てるためにお金をかける余裕がない家庭が多い」(テモさん)からだ。フィジー政府機関の調査によれば、31の不法居住地で、居住者の90%が木材や薄いトタン屋根などリサイクル素材(廃材)で作った家で生活している。
フィジー人の生活レベルは実際、高いとはいえない。アジア開発銀行(ADB)の2016年版統計によると、フィジー人の実に31%が貧困線(1日1.9ドル)以下の水準で暮らしている。またハビタットによれば、人口の6分の1に当たる約14万人が不法居住地で生活する。2007年から2012年にかけてこの人口は年5%のペースで増え続けているという。
お金を必要としない防災スキルの需要は大きいはず。ビルト・バック・セーファー・トレーニングは、現在進行中のコロ島から、本島ビチレブ島で被害が大きかった北部のラ州にも今後広げる予定だ。フィジーでは12月から、サイクロンの襲来が多くなる雨季が始まる。