気候変動対策は「緩和策」と「適応策」に分類できる。近年、より注目を集めているのが適応策だ。この分野は日本企業のビジネスチャンスとなる大きな可能性を秘めている。
■緩和策への悲観と適応策への期待
緩和策は、温室効果ガス(GHG)の排出削減に取り組む活動を指す。再生可能エネルギーの導入やクリーン開発メカニズム(CDM=途上国で先進国がGHG排出削減プロジェクトを実施し、その成果を先進国の削減分にカウントできる仕組み)の推進などが代表的なもの。一方、適応策とは、気候変動に伴う影響に対して社会や経済システムの整備を行い、その度合いを軽減するもの。例えば、洪水や干ばつへの対策、水資源管理などがある。
適応策に大きな注目が集まったのが、2006年11月にケニア・ナイロビで開催された気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)。サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカでの初めての開催であり、アフリカ各国の気候変動に対する脆弱性や適応策に対する資金援助について協議が進んだ。
一方、2012年12月のカタール・ドーハCOP18では新しい国際枠組みが主な議題となったが、サイドイベントを中心に、緩和策に対する悲観と「適応策への期待」が議論された。
国連環境計画(UNEP)が「気温上昇を2度以下に抑えることはまだ可能」(The Emission Gap Report 2012)と述べる一方、各国の取り組みや国際交渉の遅延を見る限りもはやこの実現は難しく、4~6度の気温上昇は避けられないという発言が多く聞かれた。そして、自然災害などがさらに深刻化し、最悪のケースを想定した適応策がますます重要となるという共通認識が広まった。
■住民に直接届く適応策の展開
こうした中、国連や国際協力機構(JICA)などの国際機関は適応策への取り組みに力を入れ始めている。また、インフラや灌漑などの大型プロジェクトとは異なり、より地域住民に密着した形で適応策を推進する日系企業も出てきている。その代表格がヤマハ発動機だ。
ヤマハがコートジボワールとガーナで進めるのが、小型浄水器による安全な水の供給と健康改善。両国では特に農村部を中心に、安全な水へのアクセスが困難になってきている。このため、住民や乳幼児の健康への影響が一つの懸念となっている。気候変動の影響と考えられ、両国政府にとってもその対策は大きな課題だ。
ヤマハは農村部に小型浄水器を設置し、住民自身が管理・運営できるシステムの構築を目指す。この浄水器は、砂ろ過とバクテリアの活動によって金属類や細菌類を減少させる機能(クリーンウォーター装置)を備え、不衛生な水の利用による下痢や皮膚病、乳幼児の死亡率の低下などが期待できる。ヤマハは同様の取り組みをインドネシアでも進めており、他の途上国への展開も可能性がある。
こうした住民に近い視点で考えた適応策の展開は、他にも多くの事例がある。シャープがケニアで進める太陽光発電を使った浄水器の設置や、東レの南アフリカでの砂漠・荒廃地の農地化、パナソニックによるケニアとソマリアでのソーラーランタンの普及などだ。
BOPビジネスともとらえられる内容だが、パナソニックは「アフリカは新たな市場。そこでのビジネス展開が第一優先」と明言する。とはいえ、適応策とBOPビジネスは親和性が高く、ビジネススキームとして適応策が持続的に普及していくのであれば歓迎すべき流れといえる。
気候変動の影響を最も深刻に受ける途上国の貧困層。その影響を軽減する製品やシステムに対するニーズはますます大きくなる。日系企業の経験や技術を使い、地域住民に直接貢献する適応策ビジネスの拡大に期待したい。(Taka F・N)