国連フォーラムは3月27日、「国連の課題と展望」のテーマで勉強会を米ニューヨークで開いた。講師は、国連の現場と本部の両方で活躍する、国連事務局広報局の植木安弘広報官。2013年は第5回アフリカ開発会議(TIVAD V)が6月に横浜市で開催され、またポスト2015年の開発目標を含め、今後の世界の潮流が示される重要な年。参加者らは、こうした時代の中で国連が果たす役割などについて議論した。概要は下の通り。
■「普遍的国際政治機関」としての国連
国連の存在意義は、主権国家のみでは解決できないグローバルな問題に取り組む点にある。たとえば世界各地で多発する紛争では、国連は話し合いの場を当事者に提供したり、第三者として平和維持活動を行い和平調停に寄与する。世界経済では、途上地域での経済開発を促進し、持続的な開発に向けた国際協調に貢献している。このほか、難民保護や食糧援助、災害対応、環境保全、薬物取引など、国連が解決にかかわる課題を挙げれば枚挙にいとまがない。
これらの活動を国連が推進するにあたって、重要なのは、国連が「不偏性」を保ち、また同時に「グローバルなプレゼンス」を発揮していることだ。ただし、不偏性は大規模な人権侵害や戦争犯罪等には適用されず、国連はPKOなどでも一般市民の保護をマンデートに加えている。プレゼンスでは、国連は世界各地に拠点があり、グローバルなネットワークをもっている。これによって、 開発をはじめとする諸問題に地球規模で取り組むことができる。
■紛争解決成功のカギは「紛争当事者の国連活動への支持」
国連が現在直面している課題に、北部でイスラム過激派やテロ組織によるゲリラ紛争が続くマリで将来的に平和維持活動をどう展開するか、国連事務総長によるシリアへの化学兵器調査団の派遣など、主権国家に対する国連の介入を巡る議論がある。シリアでの紛争は、シリア国内での対立、中東地域レベルでの対立、国際的対立が複雑に絡み合っており、これまでの国連・アラブ連盟合同特使の努力にも関わらず、解決の目途が立っていない。シリアの複雑な国内事情から、これまでの一般的紛争解決のアプローチでは解決が困難と思われ、紛争後の政治解決の展望を今から提示していかなければ交渉解決への糸口が見つけられないのではないか。
国連の歴史を振り返ると、国連の関与が成功した時は、現地政府のニーズと要望に基づく介入だったことが多い。国連による介入活動が成功するどうかはいわば、紛争当事者の国連介入や活動への政治的支持があるかどうかが鍵だ。
■「サマリーライティング」は必須能力
講師の植木氏は30年近く国連に勤務してきた。事務総長報道官室や国連事務局広報局広報戦略部などで国連広報の最前線で活躍し、フィールドではナミビアと南アフリカでの選挙監視、東ティモールとスマトラ島沖地震(2004年)後のインドネシア・アチェで政務官・報道官・広報官、イラクでの国連大量破壊兵器査察団のバグダッド報道官などを歴任してきた。
この勉強会では、国連でのキャリア開発についても議論が及んだ。長期的なキャリアパスを見据えて、さまざまなスキルと経験を身につけていくことが重要だが、国連で必須とされるものとして専門分野での知識に加えて「コミュニケーション力」や「ライティング力」がある。
国連の新たなYPP採用試験(32歳までが対象)で、ライティングの中でもとりわけ不可欠なのは、一般試験部門で試される要点を絞りつつも取りこぼしのない文章を作成するPrécis-writing (サマリーライティング)能力。Précis-writingは、日本の教育では重視されていないが、欧米での教育ではカリキュラムの一部に組み込まれている。日本の教育しか受けたことがない人にとっては特別の訓練が欠かせない。国連のウェブサイト1にもそのガイドが掲載されているので、これを参考にしながらその能力を磨くことが必要である。
勉強会の後は、恒例の懇親会が開かれた。植木氏を十数人が囲み、アットホームな雰囲気の中、議論の続きが繰り広げられた。参加者は国連についてさらに理解を深めたようだった。(国連フォーラム勉強会担当・原口正彦)