クスコで出会った物売りの少年、夢は観光ガイド‥‥

クスコで出会った少年。ケチュアの血を引いていた

ロンドンでの大学院生活を終えようとする中、たまたま200ポンド(3万5000円) のペルー行きの格安チケットを見つけた。私は迷わず、かねてから憧れていたインカの都クスコへ飛んだ。

プラサ・デ・アルマス(中心の広場)のベンチで一休みしていると、地元の人がたくさん物売りにやってくる。アクセサリーや絵画、そして靴磨きまで。

そんな中に小学2年生くらいの男の子が、アルパカの指人形でいっぱいの大きな袋を手に近づいてきた。膝をつき、5本の小さな指にアルパカの指人形をはめ、一人劇まで披露し、2つで3ソル(約100円) の指人形を一生懸命、私たちに売りつけようとしてくる。しかし突然、私たちに身を寄せ、誰かから隠れるようにして、「僕いかなきゃ」と立ち去っていった。

約5分後、少年はすたすたと戻ってきた。少年は、スペイン語が流暢な私の友人に、さっき何が起きたかを説明した。

「クスコでは子どもが物売りをすることは禁じられているんだ。警察に2回捕まると、売り物は没収される。僕はもう1回捕まっていて、警察に警告を出されているから、やばいんだ」

どうして物売りをしないといけないの?と私は彼に尋ねてみた。すると彼はこう答えた。

「僕にはお父さんがいない。お母さんは病気で家にいて、物売りができない。だから長男の僕が学校へ行く時間を削って、観光客相手に路上で商売している。さもないと、僕も、2人の妹弟も学校へ通えない。クラスメートからは貧乏とからかわれるけれど‥‥」

私は正直、典型的な話すぎて100%信じることはできなかった。だが、私の友人が手にしていたフランス語のガイドブックに強い興味を示す純粋さとおう盛な知的好奇心に心を打たれ、2つのアルパカ指人形を買った。

クスコは、実は私にとって初めての途上国体験。「大人になったら、ここで観光ガイドの仕事を始めたい」と語る少年の話を聞き、私はショックで涙ぐみながら、観光で成り立つ街の華やかさと、照らされていない貧困の現実のコントラストに複雑な思いを巡らせていた。(佐野藍沙)