TICAD Vが閉幕、安倍首相「伸びるアフリカに投資するのは今」

TICAD V閉幕後の共同記者会見に臨む安倍首相

第5回アフリカ開発会議(TICAD V)は6月3日、アフリカ開発の方向性を示す「横浜宣言2013」と、今後5年間のロードマップ「横浜行動計画2013-2017」を満場一致で採択し、閉幕した。

アフリカから51カ国、アフリカ以外から35カ国、また74の国際機関、NGOなどの代表者ら総勢4500人以上が参加したTICAD Vでは、援助だけでなく、民間セクター主導によってアフリカ経済の成長を促進していこう、との考えが強調された。今回から、共催者として、日本政府、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行に加えて、アフリカ連合委員会(AUC)も名も連ねた。共催者のすべてのトップは横浜に姿を見せた。

TICAD V閉幕後の共同記者会見で安倍首相は「成長はアフリカにあり。伸びるアフリカに投資するのは今」という言葉を繰り返した。また、援助をてこにアフリカ市場への攻勢を強める中国との違いを意識し、「天然資源だけを日本に持ち込むことはしない。アフリカに平和と安定がもたらされ、人々の生活が豊かになることを同時に目指す。日本とアフリカがともに成長する互恵的な関係を作る。アフリカ各国の首脳からは、アフリカに進出した日本企業は職場に『倫理』を持ち込んだ、と高い評価を受けている」と述べた。

今回のTICADは、「躍動するアフリカと手を携えて」を基本メッセージに、「強固で持続可能な経済」「包摂的で強靭な社会」「平和と安定」の3つを主要テーマとした。3日間に及んだ議論の中で幾度となく出てきたキーワードは「貿易・投資」「インフラ整備」「産業人材の育成」「民間主導の経済成長」「オーナーシップ(自助努力)」「農業の生産拡大」「貧困削減」――などだった。

横浜宣言は、開発課題のあらゆる局面で重視する指針として▽アフリカ自身の取り組みを日本が支援する▽女性の役割と参加を向上する(女性の主流化)▽若者の機会を拡大する▽人間の安全保障を促進する――の4点を示した。

横浜宣言を受けて、実行に移す横浜行動計画の要旨は下の通り。

1)経済成長の促進

<主な成果目標>
・アフリカの全貿易量に占める域内貿易の割合を拡大する
・アフリカのビジネス環境を改善する
・アフリカの輸出量を増加させる

<TICAD Vの主な重点分野>
・域内統合を推進する。とりわけ貿易に関連するインフラの整備や貿易障壁の撤廃などを進める
・ビジネス環境を改善し、投資を呼び込む
・持続可能な資源開発の促進を支援する。民間セクターの責任ある活動を奨励する
・アフリカの中小企業や女性起業家を支援する
・アフリカの女性のリーダーシップなどに寄与する能力を強化する
・アフリカ産品の世界市場へのアクセスを促進する

2)インフラ整備・能力強化の促進

<主な成果目標>
・インフラ整備への投資額を増加させる
・科学研究と技術移転を促す
・大学の卒業者数と技術・職業訓練の研修員数を増やす

<TICAD Vの主な重点分野>
・基幹インフラを官民連携で整備する
・持続可能な都市開発を支援する
・科学・工学分野の高等教育を推進する
・雇用につながる高度なスキルを提供する技術・職業教育を促進する
・若者の雇用と起業についての革新的プログラムを強化する

3)農業従事者を成長の主人公に

<主な成果目標>
・包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)が掲げる農業セクターの成長率6%を達成する
・アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)の取り組みを通じ、2018年のコメ生産量を08年比で倍増させる

<TICAD Vの主な重点分野>
・18年までにサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカのコメ生産量を2800万トンに倍増させる
・「儲かる農業」アプローチを通じ、小農(とりわけ女性)のための市場志向型農業を促進する
・必要なインフラと先進的・実用的な農業技術(加工・貯蔵・市場アクセスなど)を含めたバリューチェーンの整備を推進する
・気候変動の脅威が増すなかで、災害に強いインフラの開発など、農業とコミュニティの強靭性を強め、国の食料・栄養の安全保障を確保する
・農業や食料安全保障などのプロジェクトに携わる女性を支援する「アフリカの女性のための基金」の財政的・技術的能力を強化する

4)持続可能かつ強靭な成長の促進

<主な成果目標>
・森林と土地管理の改善を通じ、森林の減少を抑制する
・気候変動適応プログラムへの投資を増やす
・再生可能エネルギーへのアクセスを向上させる
・国家開発計画に「防災」を主流に置く国の数を増やす

<TICAD Vの主な重点分野>
・環境政策の立案と環境技術分野の人材育成の取り組みを促進する
・多様な生物の持続可能な利用と土地・森林資源の管理を促進する
・持続可能な土地管理、干ばつや砂漠化の対策を支援する
・水力、太陽光、地熱、バイオマス、風力などの再生可能エネルギーへの投資を促進する
・REDD+(森林の劣化を防ぐことで、温室効果ガスの排出を抑制するスキーム)のプロジェクトを推進する
・予測不能なアフリカの気候に対応するための早期警報システムを支援する

5)万人が成長の恩恵を受ける社会の構築

<主な成果目標>
・初等・中等教育を完全に普及させ、また職業訓練を増やす
・脆弱層への公共保健サービスを拡大し、医療保障を増加させる
・専門の技術をもつ分娩介助者による分娩の割合を増やす
・標準体重を下回る5歳未満児を減らす
・5歳未満児と妊産婦の命を救う
・家族計画の提供を進ちょくさせる
・HIV・エイズ、結核、マラリアの死者数を削減する
・安全な飲料水へのアクセスを増やす

<TICAD Vの主な重点分野>
・適切な教育施設の提供、教員の能力向上、関係者の管理行政能力の改善を通して、初等・中等教育と職業訓練へのアクセス・質を向上させる
・ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を進展させるための保健制度を強化する
・アフリカ各国が、自国の政策を、アフリカ妊産婦死亡削減加速化キャンペーン(CARMMA)とセクシャル・リプロダクティブヘルスの権利にかかわる「マプト行動計画」に整合できるよう支援する
・安全な水と衛生状態の持続可能な供給・アクセスを改善する
・総合的な廃棄物管理を促進する

6)平和と安定、民主主義、グッドガバナンスの定着

<主な成果目標>
・アフリカ平和安全保障アーキテクチャー(APSA)を実施する
・テロ対策と組織犯罪撲滅のための訓練を受けた人員の数を増やす
・ジェンダー不平等を是正するため、女性の経済アクセスを拡大させるプログラムへの支援を増やす
・若者の雇用機会を創出するため中小企業の支援を増やす

<TICAD Vの主な重点分野>
・平和と安定の取り組みを効率的に実施するため、アフリカのオーナーシップ・能力の向上を支援する
・紛争予防、紛争終結後の復興とテロ、国際組織犯罪、海賊との戦いに対するアフリカ自身の取り組みを支援する
・政策の立案・実施のための行政官の能力強化を支援する。選挙プロセスも促進する