国際協力NGO のネットワーク団体「動く→動かす」は7月5~11日、21日の参議院議員選挙に向け、各党が掲げる政府開発援助(ODA)政策について緊急アンケートを実施した。対象は、自民、民主、維新、公明、みんな、生活、共産、社民の主要8政党。すべての政党がODAの増額を支持していることがわかった。だが一方で、社民と共産が「多国間援助」「ミレニアム開発目標(MDGs)の達成」を、維新は「途上国の経済開発」をそれぞれ重視するという違いが浮き彫りとなった。自民と民主からは具体的な回答は得られなかった。
■社民・共産は「ODAをGNI比0.7%にすべき」
ODAの増額幅を具体的な数字で示したのは社民と共産の2党だ。両党は「2015年までに国民総所得(GNI)比で0.7%(現在はおよそ0.2%)に増やすべき」と回答した。これ以外の党では、「少なくとも現状より大幅に増額すべき」(みんな)、「現行水準を上回るGNI比の増額とともに、質も向上すべき」(公明)、「質・量ともに強化し、ODAの活用を通じて、貧困削減、平和構築、民主化支援などを進め、途上国の発展に寄与する」(民主)との答えが並んだ。
アンケートではまた、ODAの主要スキームである「有償資金協力」(円借款)、「無償資金協力」(返済義務のない贈与)、「技術協力」(人材を育成したり、技術移転を促す協力)、「多国間援助」(国際機関などに資金を拠出するもの)の4つのうち、各党はどれに最も重点を置くかについて質問した。
技術協力を最優先すると回答したのは、維新、みんな、生活の3党。無償資金協力を1位に選んだのは、公明、共産、社民、みんなの4党だった。これに対して有償資金協力を1位に挙げたのはみんなの党のみ。ただ、みんなの党は、有償、無償、技術協力の3つのスキームを同列で1位に位置づけている。
自民、民主の両党は、優先順位を付けなかった。自民は「状況、ニーズをみながら、機動的に対応する」、民主は「援助分野・対象国の情勢を見ながら決めていく」との方針をそれぞれ示す。
多国間援助を比較的重視するのは社民と共産で、ともに2番目に挙げた。これは、維新、みんな、生活の3党が4番目(最も重視しない)と答えたのとは対照的だ。
各党の回答について動く→動かすは「多くの政党は、(国際機関を経由する)多国間援助より、『日本の顔の見える援助』である二国間援助(有償、無償、技術協力)を重視する傾向にある」と分析する。
■維新はジェンダーより「経済開発」
ODAが供与されるべき分野は何か、との問いに対しては、優先順位を示さなかった自民、民主、生活の3党を除くと、すべての政党が「緊急人道支援」を第一に掲げた。だが動く→動かすは「紛争や災害への緊急支援は、国際機関に資金を供与するかたちで実施するケースが多い。こうした実態を考慮すると、多くの党が多国間よりも二国間の援助を重視する傾向は、緊急人道支援を重視する姿勢と矛盾している」と指摘する。
「ジェンダー平等」をODAで支援する分野に挙げたのは、民主、共産、社民の3党だ。とりわけ社民党は、緊急人道支援に次ぐ2番目に位置づけた。共産と社民の両党は、ジェンダー問題だけにとどまらず、ミレニアム開発目標(MDGs)全般への関心が比較的高いようだ。
対照的なのは維新。「高等教育」を3番目、「経済インフラ」を6番目、「情報通信技術」(ICT)を8番目に挙げるなど、経済開発や、日本の経済成長にも資する分野を重視する姿勢が強い。ジェンダー問題には一切触れていない。
アンケートではさらに、「次の3年間で、優先して援助すべき対象国はどれか」との質問もした。「脆弱国など」(政情不安や紛争など、厳しい開発課題に直面している国など)を1番目に挙げたのは、維新、みんな、共産の3党。「後発開発途上国」としたのは、公明、みんな(1位に複数回答あり)、生活、社民の4党だった。自民と民主は優先順位を付けなかった。自民、民主を除く6党に共通するのは、援助対象として「新興国」を最も重視しないという見方を明確に示していることだ。
この結果を見る限り、「開発援助を日本の成長戦略とつなげて体系的に考える発想がまだ各党には十分に浸透していないということがわかる」と動く→動かすは指摘する。
09年に設立された動く→動かすは、70以上の日本の国際協力NGOが加盟するネットワーク団体。MDGsの達成に向け、援助の量と質の向上、貧困削減や開発にかかわる政策の改善を目指し、政策決定者へのアドボカシー(政策提言)を手がけている。