国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)は1月25 日、世界各国の公務員や政治家が賄賂などの不正行為に応じるかどうかを数値化した2016年版「腐敗認識指数」を発表した。対象176カ国・地域のうち、最もクリーンな国とされたのはデンマークとニュージーランド、最下位は10年連続でソマリア。途上国トップは21位のウルグアイだった。日本は20位、米国は18位。
ワースト10に名を連ねたのは、ソマリア(176位)を筆頭に、南スーダン(175位)、北朝鮮(174位)、シリア(173位)、イエメン、スーダン、リビア(いずれも170位)、アフガニスタン(169位)、ギニアビサウ(168位)、ベネズエラ、イラク(ともに166位)。アフリカや中東を中心に、紛争や経済混乱に陥っている国ばかりだ。
トップ5は、デンマーク、ニュージーランド(ともに1位)、フィンランド(3位)、スウェーデン(4位)、スイス(5位)。いずれも、国民に開かれた政府、報道の自由、市民の自由、司法の独立が確立されている。アジアからはシンガポールが7位に入った。
■ミャンマーが少し清廉に
各国の状況を地域別にみると、中南米にとって2016年は、パナマ文書が出されたこともあり、“汚職と闘った1年”だった。ブラジル(79位)では、域内最大の建設会社オデブレヒトが契約をとるためにブラジル石油公社(ペトロブラス)に巨額の賄賂を渡していた事件が明るみになった。
またアルゼンチン(95位)のクリスティーナ・フェルナンデス前大統領は、在任中の公共工事をめぐる汚職の罪で訴追された。ポピュリスト政権だったフェルナンデス大統領が2015年12月に退任後、皮肉なことにアルゼンチンの汚職度は下がっている。
アジアでは、ラオス(123位)、ミャンマー(136位)、東ティモール(101位)がクリーンな方向に行きつつある。とりわけミャンマーでは2016年に文民政権が誕生。アウンサンスーチー氏率いる与党・国民民主連盟(NLD)が汚職の撲滅に乗り出したところだ。
東南アジアで最も汚職がひどい国となったのは2年連続でカンボジア(156位)。フン・セン首相が野党勢力への弾圧を強めるなか、NGOの活動を制限していることが背景にある。
タイ(101位)の汚職度も悪化している。民政復帰への一歩となる新憲法案の賛否を問う国民投票が2016年8月に実施され、賛成多数となったが、軍政は、草案についての自由討論を禁止。また反対運動した人を拘束した。TIは、タイの政情不安は汚職と関係していると分析する。
日本の状況についてTIは、時おり表に出る政治家の贈賄事件に加えて、公務員の天下りは国際的には賄賂とみなされると指摘。また、国連腐敗防止条約を世界181カ国が批准しているにもかかわらず、日本はまだであることを問題視した。
■カタールの汚職度が悪化
中東では、チュニジア(75位)の汚職度が減った。情報アクセス法を成立させたほか、汚職防止機関の能力・権限を引き上げたことが評価された。
汚職度が悪化したのはカタール(31位)だ。FIFAワールドカップ2022年大会を誘致する際に賄賂を渡したとされるスキャンダルが響いた。
サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカは明暗を分けた。2016年は域内各国で選挙がたくさんあった年。大統領選を平和裏に終えたカーボベルデ(38位)とサントメ・プリンシペ(62位)の汚職度は下がった。
悪化したのはガーナ(70位)、南アフリカ(64位)、ナイジェリア(136位)、タンザニア(116位)、ケニア(145位)だ。
ガーナでは、まん延する汚職に不満を募らせる市民が立ち上がり、歴史上初めて、現職の大統領が落選することにつながった。また南アフリカでは、ズマ大統領の汚職スキャンダルがメディアに大々的に取り上げられ、裁判沙汰にもなった。
ソマリアは2016年、議会選挙は実施されたが、違法行為と汚職にまみれたという。また大統領選は3度延期され、いまだに実施されていない。
■汚職=富の不公平な分配
汚職を、TIは「富の不平等な分配につながる」としている。ホセ・ウガスTI会長は「いまだに多くの国では、汚職のせいで、生きるのに必要なモノも十分にもてず、お腹を空かせて寝る人がいる。その一方で、汚職と権力にモノを言わせて、罰を受けずに、ぜいたくな暮らしをしている人がいる」と矛盾をつく。
ウガス会長はまた、ポピュリズムの危険性にも言及。「ポピュリストの政治家らは、汚職のサイクルを断ち切ると約束するが、その多くが政権に就くと表現の自由を制限したり、司法の独立性を弱めたりする。汚職をなくすためには、表現の自由、政治プロセスの透明化、民主制度は欠かせない」と話す。
腐敗認識指数をTIは1995年から毎年発表している。贈賄リスク対策の資料として日本の大手企業も使う。TIは「途上国の贈賄事情は劇的に改善されてきた。途上国では賄賂が当たり前という認識は改める必要がある」とアドバイスする。