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「世界一幸せな国」とされるフィジーで100人(複数回答あり)に、「あなたにとっての幸せとは何か」という質問をしてみた。調査場所は、ビチレブ島西部のナンディの路上。そこで分かったのは、お金がなくても、「家族や友だちと過ごす時間」が幸せをもたらすということだ。その理由を、価値観、文化、生活環境の視点から考えていきたい。
■理由1:人付き合いが大好き
幸せとは何かと尋ねたところ、最も多かった答えは「家族」の30人だった。その後に「人付き合い」(19人)、「友だち」(15人)、「人との出逢い」(7人)、「フィジー人であること」(2人)などと続いた。
122の回答のうち、実に72が「人」絡みで、「お金」と答えたのはゼロだった。20代の女性は「友だちとスポーツをしたり、会話を楽しんだりするときにとても幸せを感じる」と迷うことなく答えた。
ナンディでは、仕事や学校が終わった後、公園で無料解放されるコートでバレーボールをしたり、おしゃべりをしたりする人が多い。また夜に友だちや親せきを家に招き、遅くまでカバセッション(ヤンゴナの根っこを水に溶かしたカバという伝統飲料を飲む会)を楽しむのも一般的だ。
人と過ごす時間が幸せだと、当たり前だが人は幸せになる。スポーツをするのも、カバを飲むのも大してお金はかからないし、特別なものも必要としない。幸せになるのに、お金のハードルが低いことが、フィジー人の幸福度を高めているといえそうだ。
■理由2:助け合いの文化がある
フィジーには、親せきや友だち同士で助け合う文化が強く残っている。街頭調査で40代の女性は「私にとっての幸せとは、フィジー流の生活そのもの。フィジー人は常に他人を気にかけ、助け合って生きているから」と答えた。
助け合いがとくに強いのが親せき同士だ。きょうだいが数カ月家に居候したり、子育てするのが難しい親せきの子どもを養子として引き取ったりするのは珍しくない。
ナンディに暮らす会社員、ツポウ・キカウさんも、2人の女の子を養子に引き取った。「1人はいとこの娘の子ども。学生で子どもができてしまったから、私が引き取った。親せき同士で助け合うのは当たり前だ」とキカウさんは言う。
フィジーには、モノやお金を共有する「ケレケレ」文化もある。親せきや友だちとお金を貸し借りしたり、トイレットペーパーや調味料がなくなったときに隣人から借りたりするのは日常的だ。
「困ったときは誰かが助けてくれる」という助け合いの習慣は、一種のセーフティーネットになり、生きるうえでの不安を減らしてくれる。またポジティブ心理学によれば、利他的な行動は幸福度を高めるといわれるから、助け合いが幸せにつながるというのは納得がいく。
■理由3:働かなくても生きられる
フィジアン(フィジー系フィジー人)には、働かなくても生きられる環境がある。それを支えるのが、フィジーの土地所有制度だ。
フィジーの国土の83%はネイティブランドと呼ばれる。これを所有するのは、すべてのフィジアンが所属する「マタンガリ」と呼ばれる血族集団だ。マタンガリは、先住民土地信託委員会(NLTB)を通して企業やインディアンに土地をリースし、収入を得ている。
郊外に住むフィジアンは所有地に畑や家畜をもっている。漁に出れば魚も獲れるし、電気はソーラー発電で賄える。そのため生活コストがかなり安い。仕事に多くの時間をかける必要がないので、家族や友だちと過ごす時間も増える。
■インディアンの生活は厳しい
一方で、フィジーの人口の40%超を占めるインディアン(インド系フィジー人)には、働かずに生きられる環境はない。インディアンが所有できるフリーホールドランドは国土のわずか10%だけ。そのほとんどが都市部にあるため、値段も高い。フィジアンから土地(ときには家も)を借りるのが一般的だ。
「インディアンは何をするのにもお金がかかる。働いてお金を稼がないと生きられない」。ナンディに暮らす主婦サビトリ・ガウンダさんは不満をこう漏らす。
土地所有の不平等さを解決しようとする動きはかつてあった。1998年の総選挙の結果、インディアンのマヘンドラ・チョードリー氏が首相に就任。土地改革に乗り出したが、インディアンに有利な制度ができることを恐れたフィジアンの武装集団がクーデターを敢行。政権から追い出した。
「不平等な土地制度はずっと変わらないと思う。私たちインディアンは受け入れるしかない」とガウンダさんは苦しい表情を浮かべる。フィジアンとインディアンの個人レベルの人間関係は良好だが、政治や制度の面ではわだかまりがある。
不平等な生活環境をみると、フィジアンの幸せは、インディアンへの搾取の上に成り立っているともいえるかもしれない。(今回で連載は終了です。お読みいただき、ありがとうございました)