「第4回40億人のためのビジネスアイデアコンテスト」(主催:アイ・シー・ネット)が2月25日、都内で開かれ、企業部門で「うんちでがっちりプロジェクト」が最優秀賞(副賞100万円、事業化調査費最大200万円)に選ばれた。提案者の杉川幸太・広島大学大学院工学研究院助教は「インドで野外排せつするのは6億人。うんちには金が入っているので、そこから金を取り出す。(うんちに)価値を持たせることで、インド人が野外排せつする習慣を少しでも減らせれば」と語った。40億人とは、全世界にいる年間所得3000ドル(約33万6000円)で暮らす貧困(BOP=Base of the Economic Pyramid)層の数。(高校生部門の記事はこちら)
■うんちは1兆6000億円の価値
杉川氏の試算によると、インド人が1年に排せつするうんちには1兆6000億円相当のレアメタルや貴金属が入っているという。金や銀、プラチナ、銅、パラジウム、インジウム、マンガンなどだ。金だけでも3800億円に相当する量がインド人のうんちには含まれている。
とはいっても、排せつ物からは金を取り出すのは世界でまだ例がない。杉川氏は、東レの「先端融合研究所」での勤務を経て、2014年から広大の大学院で、わずかな含有量でも金を取り出せる技術の研究に取り組んできた。「し尿処理施設でうんちを処理した後に出る汚泥を1回硫酸に浸し、次に中和し、米ぬかの吸着剤を組み合わせ、金を精錬していく。ポイントは汚泥をいかに濃縮できるか。1トンのうんちからわずか6ミリグラムの金しか取り出せない。現地に行き、採算が本当に取れるのかを調査する必要がある」と杉川氏は話す。
インドでは、約6億人が野外排せつしているという。全人口の半分だ。杉川氏は「野外排せつをすると、水や食べ物の汚染につがるため、感染症にかかるリスクが上がる。女性にとっては性的暴行を受ける原因にもなる。うんちに価値を持たせることで、野外排せつの習慣をやめさせたい」と話す。
野外排せつが減れば、そのぶんうんちはトイレから下水を通ってし尿処理施設にいく。し尿処理施設でうんちを処理した後の汚泥からから取り出した金はインドの企業に売る。「金はインドで人気。必ず売れる。市場が約束されているから市場を開拓しなくてもいい」(杉川氏)。従来はコストのかかるし尿処理。金を取り出すことで利益が出るシステムに変えられれば、インド国内でトイレの普及も進みそうだ。
■ヤクバターでチベット族の健康改善
コンテストの協賛企業のひとつジー・サーチ(東京・港)が表彰する「ジー・サーチ賞」に輝いたのは、東京大学大学院を経て、文房具メーカーのキングジムで日本流の物づくりを学んだ後、現在は退職して起業準備中の北京出身の中国人、シュエ・ティン氏だ。
中国西部の青海省には650万人のチベット族が暮らす。チベット族に欠かせない食材といえばヤクバターだ。ウシ科の動物ヤクのミルクから作ったバターで、バター茶として飲む。だがヤクバターは、殺菌処理や包装されずに長期間保存されるため、嘔吐や下痢、発熱などを引き起こすという。
シュエ氏のビジネスアイデアは、青海省で高品質なヤクバターを生産し、チベット族や、年間500万人に上る青海省の観光客に売るというもの。青海省のチベット族とかつて働いた経験をもつシュエ氏は「生乳をチベット族から買い取り、生産工程での殺菌、包装の真空パック化によって、高品質のヤクバターを作る。そうすればチベット族の健康は改善でき、また地元にお金も落ちる」と青写真を描く。
■カンボジアの高校生に「就職につながる学び」を
早稲田大学を2016年に卒業し、カンボジアの貧しい高校生を対象に教育事業を立ち上げ中の川端正人氏のビジネスアイデアは、授業をするだけでなく、就職まで支援する学校「BATON」を開校するというもの。「カンボジアでは経済格差がそのまま教育格差になっている。貧困のため大学へ行けない地方の高校生は就職するため、学びもストップしてしまう」と話す。
BATONの潜在的ターゲットとなるのは、カンボジアの地方に住む約22万人の高校生だ。収益は、1人年間4万円を想定する学費だ。「スマートフォンを活用し、映像授業を交えながら実践的な英語や基礎算術を教える。その後、(就職へのステップとして)カンボジアの企業でインターンシップさせる」と流れを説明する。
■ルワンダのコーヒー×ドローン
ドローンと農業を組み合わせた事業を展開するドローンジャパン(東京・千代田)でインターンし、情報通信技術(ICT)を使った教育をルワンダなどで提供するNPO法人エドテックグローバルで活動する野口貴裕氏は、ルワンダで高品質のコーヒーを作り、付加価値を付け、それをルワンダ国内のカフェで提供するというビジネスアイデアをプレゼンした。
「コーヒー豆の育て方は農業のプロに指導してもらう。品質の高さだけでなく、カフェで出すコーヒーの容器にQRコードを付け、ドローンで空撮した収穫の様子などを消費者に届けたい」と述べた。